パラフィン紙で肉を包んで揚げたペーパーチキン

実はチアさんお薦めのほかの料理は、昔の人の知恵から生まれた節約料理ばかりだった。例えば、パラフィン紙に包んだ鶏肉を油で揚げた「ペーパーチキン」は肉が紙で包んであるため油を吸わず、揚げ油が少なくてすむ料理。

節約のために考えた調理法だったのだろうが、タレにじっくり漬け込んだ鶏はパラフィン紙に包んで揚げることで直に油に触れず、肉がとても軟らかく仕上がる。肉汁が逃げないので、食べると肉汁がじゅんわり口の中に広がった。

フィッシュヘッドカレー 白身の魚を使う

やはりシンガポールの名物料理である、魚の頭入りのカレー「フィッシュヘッドカレー」は、頭などかつて捨てられていた魚の部位を用いた料理。人口の1割近くを占めるインド人の食文化の影響を受けた料理だが、「新東記」で食べたのは、パンダンという東南アジア独特の食材を使っていた。

パンダンは、風味づけや緑色の食品着色料として使われる植物で、芳ばしい香りがする。かつてはもっと身が少ない部位を使っていたのだろうが、魚の頭といった骨付き部位を使うことで、だしが効いたおいしいカレーが生まれ、自然に広まっていったのだろう。カレーはさらりとしていて、魚好きの日本人の味覚をくすぐる味わい。私が最初にシンガポールを訪れた際、一番印象的だったのもこの料理だったことを思い出した。

バナナの葉ですり身にした魚介類などを包んで焼いたオタオタ

チアさんが、「オタオタ」(シンガポールの公用語の一つであるマレー語で脳という意味)という料理を薦めてくれたのも興味深かった。レシピにバリエーションがあるようだが、「新東記」で食べたのは、エビと青魚をすり身にしてココナツミルクやスパイスと合わせ、バナナの葉で包んで焼いたもの。

ラクサの屋台ではよく一緒に売られている食べ物で、「私はこれがあったら、まず買います。『ラクサ』に入れるとおいしいんですよ」とチアさん。パンにはさんだり、ご飯と一緒に食べたり、お酒のツマミとしても最高と言いながらチアさんは「一番ポピュラーなのはおやつとして買って、これを食べながら歩くというスタイルかな」と言う。

エビしんじょうのような食感かと思いながら食べてみると、ホロホロと魚フレークのように崩れ、中から刻んだレモングラスがのぞいた。生のレモングラスを使っていて、スパイシーなココナツ風味の魚料理に爽やかな味と食感が加わる。

バナナの葉で包まれたオタオタは、見るからに食べ歩きに向いていそうだ。ホーカーセンターの料理はシンガポール人の食生活だけではなく、歴史やライフスタイルをも映し込んでいる。ミシュラン星付き店誕生には、そんな屋台文化の豊かさも一役買っているのだろう。

(フリーライター メレンダ千春)