2017/8/12
NASAの土星探査機カッシーニが撮影したモザイク画像に着色したもの。タイタンの北半球を彩る炭化水素の湖や海が見える。(IMAGE BY NASA, JPL-CALTECH, ASI, USGS)

しかしタイタンの気温は極めて低いため(マイナス180℃)、氷は石のように硬く、湖に流れ込むのは水ではなく液体のエタンやメタンだ。赤道付近の砂丘を形成するのは砂ではなく凍ったプラスチックで、地球では化学処理工場で合成されるような化合物が雨となって降り注いでいる。

つまり、もしタイタンで生命が進化を遂げているとすれば、その分子機構は水ではなく、炭化水素を効率よく循環させるために最適化されているだろうと考えられる。

「太陽系のどこを探しても、こうした炭化水素の湖を持っている星はありません」と、論文の共著者であるNASAゴダード宇宙飛行センターのコナー・ニクソン氏は言う。「この湖の仕組みを理解するには、まったく新しい生物学を用いる必要があります」

完全な分子構造を発見

2004年以降、NASAの探査機カッシーニは土星の周囲をまわりながら、大きくて奇妙な衛星タイタンの研究に貢献してきた。10年以上前、カッシーニは、シアン化ビニルを構成する原子――炭素原子3つ、水素原子3つ、窒素原子1つ――を含む分子がある証拠を見つけたが、カッシーニのデータからは、これらの原子がシアン化ビニルを構成する配列になっていると断定することはできなかった。

今回の論文で、現在はNASAに勤める研究リーダー、モーリーン・パーマー氏のチームが、チリにあるアルマ望遠鏡が集めたデータを精査した。

その結果、シアン化ビニルが存在するという確実な証拠、つまり原子だけでなく完全な分子構造が、2014年2月から5月のあいだに観測されたデータの中から見つかった。

こうして発見されたデータを基に、研究者らは、タイタンの大気中には大量のシアン化ビニルが含まれていると結論づけた。シアン化ビニルは、主に高度200キロを超える高さで検出されている。これは太陽光やその他の粒子が、窒素を主成分とするタイタンの大気の上部にぶつかり、そこにあるメタンや窒素を「レゴブロックのように」破壊する際に、シアン化ビニルが形成されるためだとニクソン氏は言う。

バラバラにされた原子は、再度集まって多様な物質を形成するが、その中のひとつであるシアン化ビニルは、ゆっくりと凝縮されつつ大気の中を沈んでいき、ついには雨粒のようになって落ちていく。タイタンの季節と大気の循環パターンのせいで、これらの分子が最も濃縮された状態で降り注ぐのは、冬が到来した極地方になるが、この星の全域にある程度は降っている。

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