「M字カーブ」落ち込み最少 働くママ、青森が1位
家族の助け厚く 待機児童ゼロ
子育てしながら働くなら青森県!? 女性の労働力率が子育て期に落ち込む「M字カーブ」現象。最新の国勢調査を基に独自に算出したら青森県が最も落ち込み幅が小さかった。出産後も仕事を続ける女性の多さの表れだ。少子化と働き手不足が深刻な日本。都道府県ランキングを基に解決の糸口を探ってみた。
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青森県 子育てしやすい環境づくり
「仕事は楽しい。子どもが生まれてからも辞める必要を感じたことはない」。青森市の2児の母、今有紀さん(41)は話す。高校卒業後に青森ダイハツモータース(青森市)に入り21年間働いている。今は総務・人事部の主任。採用担当として出張もこなす。
会社員の夫と長男(7)、次男(2)の4人暮らし。困ったときは徒歩圏内に暮らす実父母を頼れる。「長男を産んだ後は育児休業を取らずに復帰、次男のときも育休は1カ月。親と近居の環境が仕事と子育ての両立の支え」
2015年国勢調査で青森県女性の労働力率をみると、25歳で85%とピークを迎え、その後は低下するものの36歳の80%を底に再び上昇する。落差は約5ポイントで全国平均13ポイントを大きく下回る。最も落差の大きい神奈川県は25歳の86%から36歳の60%へと20ポイントも落ち込む。両県の差は大きい。
青森県の労働力率の土台は子育てしやすい環境だ。3世代同居率は全国12位(15年国勢調査)で家族の助けが望め、待機児童は6年連続ゼロ。
2人の子どもを育てる野宮真美さん(38)は「希望したらすぐに保育所を利用できた」と話す。2人目を妊娠した7年前、体調を崩し仕事を辞めた。出産10カ月後に再就職活動を始めると保育所にすぐ入れた。子どもを預けながら求職し、3カ月後に再就職が決まった。「就職が決まらないと入れない」「保育所に入れないと求職活動もできない」。待機児童が深刻な都市部のジレンマとは無縁だ。
受け皿も増えている。中部電力やマネックス証券など大手企業がコールセンターを開設。ここ数年で2000人以上の女性雇用が生まれた。青森空港への国際便を誘致し、15年の外国人宿泊者は過去最高の11万人。ホテルや飲食などサービス業の求人増は女性の就業率アップに一役買う。
青森県は6月に県内で働くワーキングマザー13人で女性就労を支援する団体「あおもりなでしこ」を結成した。仕事と子育てが両立しやすい環境を直接語りかけるイベントを東京都や仙台市、盛岡市などで開き、女性のUIターンを増やす狙い。「人口減少は深刻。女性が子育てしやすく働きやすい青森の魅力をアピールし、県の活性化につなげたい」(県企画調整課)
M字カーブ現象には、もう一つ特徴がある。子育て期に落ち込んだ労働力率が元の水準まで戻らないことだ。全国平均でみると若年期ピーク85%に対してシニア期ピークは78%止まり。女性は労働市場から1度退出すると再就職が難しい。ただ高知県は唯一、この定説が当てはまらない。25歳の85.37%から31歳は79%台に落ち込むが、44歳で85.43%に。若年期の労働力率ピークをシニア期が上回る。
高知県 就労意識の高い女性を支援
「高知の女性を土佐弁で『はちきん』と呼ぶ。昔から活動的で知られ、働くことをいとわない」と高知県県民生活・男女共同参画課の古味加奈チーフは説明する。就労意識が高い女性を支援するために県は「高知家の女性しごと応援室」を14年6月に開設。この3年で約400人の女性が仕事に就いた。子育て中でフルタイム勤務が難しい女性のために求人中の企業と就業時間・日数を調整をするなどきめ細かな対応をとる。
高知県固有の産業構造も下支えする。高齢化を背景に介護・福祉、医療サービスといった女性比率が高い業種の求人が多い。「これらの職種は定年がないか遅い。元気なうちは働き口があるので、シニア期以降も女性の労働力率が落ちない」(古味さん)
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働かざるを得ない現実も ~取材を終えて~
M字の落ち込みが大きい都道府県も解消に力を入れる。愛知県は今年度から女子中高生向けに理系進路の選択を促す情報発信を始める。製造業が強い土地柄なので理系の方が就職の間口は広い。即効性はないが、将来を見据えた女性就業支援だ。「県内の生産年齢人口も減っていく。経済界を中心にM字解消を望む声が強くなっており、あらゆる手立てを講じたい」(県男女共同参画推進課)
神奈川県が1位で青森県が最下位――。M字ランキングとまったく逆の結果を示す統計がある。それは30~39歳既婚男性で年間所得が500万円以上の比率だ。神奈川が42.7%に対して青森は4.9%。このランキングでは岩手(44位)や高知(35位)、秋田(32位)、鳥取(43位)は下位に回る。「男性が稼げない分、女性が働かざるを得ない現実もある」と青森と高知の両県担当者は口をそろえる。男女双方が働きやすい都道府県を探すのは難しい。
(編集委員 石塚由紀夫)
[日本経済新聞朝刊2017年8月7日付]
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