マネー研究所

NQNセレクション

AI時代こそ為替は人脈 「想定外」に弱い自動取引 すご腕為替ディーラーの至言(荻野金男)

2017/8/16

PIXTA

 外国為替に限らずディーリングは情報戦の様相が濃い。トップクラスのディーラーはたいてい情報収集にたけていた。「すご腕為替ディーラーの至言」、今回はマットキャピタルマネジメントの荻野金男氏。荻野氏は現役時代に「業界一」と評された情報通で、ヘッジファンドなどの有力投資家や通貨・金融当局内に張り巡らした人脈は現在も生きている(以下談)。

■相場のことはマーケットに聞け

 ディーリングに臨むにあたっては、マーケット(市場)がいまどこの何にフォーカスしている(焦点を当てている)のか知っておく必要があります。そのために大手ヘッジファンドなど実際に相場を動かしているプレーヤーとの情報交換が欠かせません。思い込みは禁物。「相場のことはじかにマーケットに聞け」なのです。

 ファンド勢など最前線で戦っているプレーヤーの話は当然、自らの取引戦略や持ち高に有利になるような偏った内容(ポジショントーク)になりがちです。最初は惑わされるかもしれませんが、いろいろな人に何度も聞くうちにポジショントークに潜む「真実」を判断する力が付いてきます。マーケットの微妙な変化も素早く把握できるようになるでしょう。

■アルゴリズム、一段と存在感高まる

 ここにきてコンピューター経由の自動取引「アルゴリズム」の存在感が一段と高まってきました。アナログで生身のディーラーは影が薄くなり、欧米の大手金融機関のディーリングルームではIT(情報技術)の研究者だった人やシステムエンジニア(SE)が幅をきかせています。著名なアルゴ系ファンドのルネサンス・テクノロジーズなどは数学の専門家やSEばかりです。

 といっても人の役割はなくならないでしょう。アルゴはもともと人間がプログラミングしており、想定外の事態には弱いもの。いざとなったら再び人の手を借りて軌道修正をしなければなりません。金融機関では必ずベテランのディーラーが後ろで守りを固めています。人間の彼らが何を考え、どんなシミュレーションをしているかがわかれば、先回りして取引できます。ここでも人脈作り、情報収集が重要です。

■AIはまだ発展途上

 人工知能(AI)を通じた投資もまだ発展途上だと思います。外為証拠金(FX)会社などはAIを用いた取引の仕組み導入に前向きですが、アルゴと同様に突発的な出来事には対処できません。AIと人が共存する時代は当分続くのでないでしょうか。

 現在は電子ブローキングシステム(EBS)のほかに私設取引所でアルゴとの親和性が強い電子取引ネットワーク(ECN)が乱立し、相場の実勢がわかりにくくなりました。例えば昨年10月の英ポンド急落時の対ドルの認定安値はメディアによって1ポンド=1.13ドル台~1.18ドル台と幅があり、だいぶ異なります。実勢はどうなのか。そうした場合でも「市場に聞く」という情報収集の基本は変わりません。相場を動かすキーマンに聞けばいいだけです。

 個人投資家はプロのディーラーに比べるとどうしても情報の質が劣ります。それでもFX会社が配信する投資情報会社のニュースや、元プロがツイッターやフェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で流すコメントでも、そこそこのレベルで需給情報は得られるでしょう。

■2017年は緩やかな円安・ドル高か

 17年の相場観は「マイルドなドル・ブル(強気)」です。足元ではトランプ米政権の先行き不透明感などからドル安圧力がかかっているものの、IT企業の台頭などで固められてきた米経済の土台が揺らぐとは想定していません。少なくとも対円ではドルの下落余地は小さいとみています。

 国内では日銀が低金利政策から抜け出せず、運用難に苦しむ国内生命保険会社などがより高い利回りを求めて外貨建て資産購入の好機をうかがっています。1ドル=105~110円をメドに為替リスクをとった円売り・ドル買いを膨らませる可能性が高く、相場をじわりと円安・ドル高の方向に押し戻しそうです。

荻野金男
 1974年に英バークレイズ銀行東京支店に入行し、同行で初の日本人チーフ・ディーラーに昇格した。その後はゴールドマン・サックス証券や英ミッドランド銀行(現HSBC)で外国為替部門の要職を務め、FX業界に移る。投資情報会社T&Cフィナンシャルリサーチとグローバルインフォ(いずれも現DZHフィナンシャルリサーチ)の取締役をへて17年8月から現職。

【記者の目】

 荻野金男氏を知る市場関係者は親しみを込めて「金ちゃん」や「金さん」と呼ぶ。ゴールドマン・サックス在籍時の呼び名は社名に掛けて「ゴールドマンの金(男)さん」だった。昔も今も変わらぬ人当たりの良さが幅広い人脈作りの原動力になっている。

 荻野氏の域に達するのはもちろん難しいだろうが、一般の個人でもSNSやブログをうまく使って情報網が作れる。とりわけFX市場で人気が高い南アフリカ・ランドやトルコリラ、メキシコペソなどの新興国通貨の投資では日本語のメディア記事がきわめて少なく、ツイッターやフェイスブック、ブログで流れる情報は生命線の1つ。真偽の見極めは必要だが、有効なツールになるはずだ。

〔日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今晶〕

マネー研究所新着記事

ALL CHANNEL