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オリパラ
インバウンド最前線

2017/8/10

インバウンド最前線

ライバルはホテルだけではない。民泊の影響も本格的に出てきそうだ。住宅宿泊事業法(民泊法)が6月に成立し、18年1月にも全国で民泊が解禁される。年間の営業日数が180日以下という制限はあるが、民泊はホテルのような大型投資が不要なため、需要に応じてすぐに供給を増やせる強みがある。

そればかりか民泊の部屋の貸し手は、訪日客が日本文化を体験できるよう「おもてなし」の準備を着々と進めている。

民泊の家主が茶道のおもてなし

「お茶をいれるまでにこんなに作法があるんですね」。東京都渋谷区の自宅の一部を民泊向けに貸す島崎夢さん(33)は7月下旬、着物姿で茶しゃくの拭き方からお茶のたて方まで茶道の心得を学んでいた。指導役は都内で民泊を営む金井美代子さん(70)。2人はともに仲介最大手の米エアビーアンドビーのサイトに部屋を掲載しており、民泊のイベントで知り合った。

民泊の側も「おもてなし」の準備を進めている。外国人宿泊客が茶道を体験できるよう、お茶の稽古をつけてもらう家主の島崎夢さん(右)
民泊はホテルのような大きな投資が不要なため、需要の増加にすぐ対応できる強みがある(東京都大田区の民泊物件)

島崎さんは自身が米オレゴン州でホームステイをした経験から民泊を始めた。二世帯住宅の2~3階部分を貸しており、部屋には長期滞在する外国人が多い。デザインにこだわった50平方メートル程度の空間が高く評価され、定員2人で1泊3万円と民泊にしては高額ながら平均で月2組以上が泊まる。

海外の旅行者は日本人との交流や現地ならではの体験を求めているという。近所のレストランを紹介するときは外国人が1人で入りにくい居酒屋などが喜ばれる。島崎さんはこれまで簡単な抹茶を振る舞っていたが、茶道に関する細かい質問に答えられなかった。「日本人なら誰でも茶道に精通していると思う外国人も多い」といい、五輪に向けて対応力を磨くことにした。

島崎さんは地元を案内する観光プランも用意する。自宅近くの商店街の地図のほか、お店の人のイラスト付きの紹介文も英語で作成。人となりを知ることで外国人と街の人が交流しやすくした。商店街も活性化につながると歓迎しており、民泊を起点に外国人旅行者の受け入れ体制が整いつつある。

エアビーに登録する部屋数は5万3000件、利用者は年間で500万人に達している。日本人が2割程度まで伸びたが、利用者の中心は依然として訪日客だ。民泊は五輪期間中の受け皿として期待されるが、質は物件や貸し手によっても差が大きい。

貸し手の多くは幅広い国籍の宿泊客を取り込もうと複数の民泊サイトに登録している。中国最大手の途家(トゥージア)が国内で掲載する物件は5000件程度とみられる。利用者の中心は中国人で、中国語で評価するコメントも多い。民泊は通常のホテルよりも広い部屋を割安な料金で借りられるほか、マンションの同じ階の複数の部屋を同時に借りることも可能だ。大人数で旅行する中国人が利用しやすい。

民泊法の成立を受け、成長産業に国内勢も商機を見いだしている。楽天は不動産住宅情報サイト「ライフルホームズ」を運営するLIFULLと組み、民泊法の施行後に仲介事業を始める。楽天は国内で高いブランド力を誇るが、訪日客の知名度では海外サイトに劣る。途家や旅行予約サイト運営の米エクスペディア子会社のホームアウェイとも連携、楽天が持つ物件を訪日客に貸しやすくする。

訪日客の16年の旅行消費額は約3兆7500億円だった。政府は20年に8兆円、30年に15兆円に引き上げたい考えだ。国内旅行の消費額と合わせて、30年に37兆円をめざす。16年度で約540兆円という世界3位の国内総生産(GDP)を600兆円に拡大するためにも、観光産業は欠かせないエンジン。需要急増への対応は必要だが、同時に過当競争に陥らない戦略も不可欠となる。

(清水孝輔)

[日本経済新聞朝刊2017年8月6日付と10日付を再構成]