佐々木 図1で紹介した19の研究のうちの一つ、アメリカの研究では、たんぱく質、脂質、糖質の構成比が異なる4種類の食事を食べた場合の体重変化を調べているのですが、結果は、「総エネルギー摂取量が同じならば、どの栄養素からエネルギーをとっても、体重変化にはほとんど違いがなかった」というものでした[注5]。
ちなみに、この後行われた11の研究をまとめた別の研究[注6]では、脂肪制限食よりも糖質制限食のほうで有意に、具体的には2.17kg多く、体重が減少する結果になりました。このようにどの研究をまとめるかによって結果は少しずつ異なるようです。しかし、過体重者や肥満者の減量効果が2kg程度にとどまっていることを考えると、「糖質制限食は脂質制限食に比べてそれほど目立った効果はない」というのが私の見解です。
編集部 何を制限してもそんなに変わらないんですね……。
佐々木 一つ注目してほしい点があります。図1をよく見てください。全ての研究において対照群でも体重が減っていますね。
編集部 本当ですね。平均で10kg以上やせている研究もあります。なぜですか?

佐々木 人は体に良い(と本人が信じている)ことを一つ始めると、ほかの体に良いことも自発的に始める傾向があるようです。典型例は「体重計にのるだけダイエット」。これは、体重を確認することで、健康的な生活習慣を自らに促すという人間の習性を利用したものです。図1の対照群の人たちも体重計にのっていたかもしれません。
編集部 なるほど。低糖質食群も対照群も「食習慣を変えた」という点では同じだったわけですね。
★目的とする食事法の効果を純粋に検討するには、食生活を変えないグループをつくって比較したり、別の食事法を実践するグループを設けて結果を比較する必要がある。このようなグループ(群)を対照群と呼び、このような研究方法を「比較試験」という。
★やせたい人たちを低糖質食群にして、やせる気のない人たちを対照群にすると、前者はさらに運動を始めてしまうかもしれないし、後者は指示を守ってくれないかもしれない。こうした影響を回避するために参加者を無作為に分ける必要がある。この方法を「無作為(ランダム)割付」という。
★やせる気がない人が低糖質食群に入れられてしまったり、やせたい人が対照群に入れられてしまうと、それぞれやる気をなくす恐れがある。結果、食事による差ではなくやる気による差が出てしまう可能性があるため、それを回避するにはどちらの群に入っているかを参加者に分からないようにして行う必要がある。これを「盲検化(ブラインド)」という。ただし、薬の比較と違って、食事療法の比較で盲検化を行うのは実際には非常に困難である。
食事療法の効果を科学的に調べることは難しい
佐々木 知っておいてほしいのは、食事療法の効果を検討することは非常に難しいということです。薬の効果を調べる場合、見た目や味が同じ偽薬(プラセボ)を使えば盲検化は簡単ですが、食事の場合、そうもいきません。糖質制限食とそうでない食事では、必然的にメニューが異なりますので、自分がどちらの群に割り付けられたかはすぐに分かってしまいます。
編集部 そうですね。そもそも、参加者が指示通りに食事をとり続けられるかというと、それ自体、難しそうです。
佐々木 オーストラリアの研究で、1年半にわたって低糖質食、低脂質食の食事を指示通りとるようにお願いしたところ、研究開始から半年後には、両群ともに平均的なオーストラリア人の食べ方に近づいていました[注7]。食習慣を変えることは、そう簡単ではないということです。
編集部 食事療法の効果を科学的に調べることは難しいんですね。では、私たちはどうやってやせたらいいのでしょうか?
[注5]Sacks FM,et al.Comparison of weight-loss diets with different compositions of fat, protein, and carbohydrates. N Engl J Med. 2009; 360:859-73.
[注7]Lim SS,et al.Long-term effects of a low carbohydrate, low fat or high unsaturated fat diet compared to a no-intervention control. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2010; 20:599-607.