大人気の「糖質制限」 他の方法より効果的?データで見る栄養学(2)

日経Gooday

「糖質を減らしたらやせた=糖質制限が有効だった」とは単純に言えないようだ(c)oneblink-123rf
「糖質を減らしたらやせた=糖質制限が有効だった」とは単純に言えないようだ(c)oneblink-123rf
日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

糖質制限ダイエットが根強い人気だ。「やせた」という人がいる一方で、「やせたけれど、リバウンドした」という声もよく聞く。果たして、糖質制限ダイエットは本当に有効なダイエット法なのだろうか。東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授の佐々木敏さんに、栄養疫学の視点からひもといてもらった。今回から編集部と佐々木さんの会話形式でお伝えしていく。

何と比べてやせるのか?

編集部 先生、糖質制限ダイエットはやせるのでしょうか?

佐々木 やせるというのは、何に比べてですか? 糖質制限ダイエットに限らず、ある一つの手法が有効かどうかを調べるには、比較対照が必要です。

編集部 確かにそうですね。では、これではどうでしょう。私たちの普段の食事と糖質制限ダイエットを比較した場合、糖質制限ダイエットは有効でしょうか?

佐々木 その前に、そもそも糖質制限ダイエットとは何かご存じですか?

編集部 え? 主食や果物、お菓子などの糖質を控えるダイエットですよね?

佐々木 いつもの食事から糖質だけを減らせば、確実に体重は減ります。しかし、それは糖質を制限したからやせたといっていいのでしょうか? 減ったのは糖質だけではありません。総エネルギーも減っています。つまり、エネルギー制限でやせた可能性もありますよね。厳密な意味で糖質制限が有効かどうかを調べるには、糖質を減らした分のエネルギーを脂質やたんぱく質で補い、同じ摂取エネルギー量にしたグループと比較しないといけません。

編集部 なるほど。単純に「糖質を減らしたらやせた=糖質制限が有効だった」とは言い切れないわけですね。

海外の19の研究をまとめてみたら……

佐々木 図1は、18歳以上の肥満者(BMI[注1]26以上)を、低糖質食をとる群(1364人)と、対照群(現時点で健康的だと考えられている食事をとる群、1406人)に分け、体重の変化を調べた海外の19の研究をまとめたものです[注2]。いずれも、基本的に低糖質食群と対照群の摂取エネルギーは同じに設定されており[注3]、各研究の期間は3カ月から2年です。

編集部 対照群がとった「健康的だと考えられている食事」って何ですか?

佐々木 総エネルギー摂取量に占める糖質、脂質、たんぱく質の割合が、それぞれ、45~65%、25~35%、10~20%の食事です[注4]。低糖質食は糖質が45%未満の食事としました。

低糖質食群のほうが対照群より減量効果が大きかったことを示す研究が多いが、全体の平均ではその差は1kg未満にすぎない。むしろ注目すべきは、全ての研究で、対照群でも体重が減っている点だ ※グラフは[注2]の論文をもとに佐々木さんが作成

編集部 図の見方がちょっと難しいです……。

佐々木 横軸は対照群の体重変化です。縦軸は低糖質食群と対照群の体重の変化の差です。つまり、対照群よりも低糖質食群のほうの体重の減少が大きければ、縦軸の値は負(マイナス)になります。

編集部 ということは……。縦軸の半分より下(マイナス)のほうに研究が集まっているので、「低糖質食群のほうが対照群よりも減量効果が大きかった」という研究が多かったということですね。

佐々木 はい。しかし、図1を見ると分かるように、ほとんどの研究でその差は2kgまでにとどまっていて、全体の平均値としては、その差は1kg未満でした。

編集部 たったそれだけ……?

佐々木 はい。つまり、このデータから読み解けることは、「摂取エネルギーが同じ場合、糖質制限は体重の変化には大きな影響がなかった」ということです。

全ての研究で体重が減っていることに注目

編集部 むしろ、糖質制限よりも脂質制限のほうが有効だったりするんでしょうか?

[注1]肥満度を表す指標として用いられている体格指数で、[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で計算する。

[注2] Naude CE, et al. Low carbohydrate versus isoenergetic balanced diets for reducing weight and cardiovascular risk: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2014; 9: e100652.

[注3]ただし、それが守られていたか否かをきちんとした方法で確かめるのは難しいため、確かめられていない研究も含まれている可能性はある。

[注4]『日本人の食事摂取基準2015年版』におけるエネルギー産生栄養素バランスは、50~65%、20~30%、13~20%でこれに当てはまる。

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食事療法の効果を科学的に調べることは難しい