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転ばぬ先の不動産学

省エネでないと建てられない 住宅の「2020年問題」 不動産コンサルタント 田中歩

2017/8/9

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 1990~2010年までの20年間で産業や運輸部門のエネルギー消費がそれぞれ漸減、微増にとどまっているのに対し、住宅・建築部門のエネルギー消費は35%増と著しく増えている――。国土交通省などが2013年12月にまとめた報告で、住宅・建築部門は省エネルギー対策の強化が強く求められました。二酸化炭素(CO2)排出量についても「ほかの部門に比べ増加傾向が顕著」と指摘されています。

 一方で国は、住宅の断熱性を測るモノサシとして1980年に省エネ基準(今は「旧省エネ基準」と呼ばれています)を設け、92年に新省エネ基準、99年に次世代省エネ基準、さらに2013年に改正省エネ基準と、段階的にその基準を厳しくしてきました。また、消費者が建物の「燃費」を簡単に比較できる「建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)」を14年に創設するなど、省エネ住宅を普及させるための政策もすすめてきました。

■無断熱の住宅が4割弱

 それにもかかわらず、11年時点の国内の既存の住宅では、無断熱の住宅が4割弱を占める状況です。加えて13年に導入された改正省エネ基準でさえ国際的にみるとかなり緩い基準だといわれる中、さらに低基準である1980年の旧省エネ基準の住宅も4割弱となっているので、省エネの観点でいえば日本の住宅は極めてレベルが低いのが実情といえます。

 こうした状況を受け、今年4月から延べ床面積が2000平方メートル以上の大規模建築物を新築する際には、省エネ基準に適合させることが義務となりました。建築主は役所などに省エネ基準について届け出る義務があり、基準に適合しない場合は建築基準法の確認済証や検査済証の交付を受けられない、つまり建物が建てられないことになりました。そして20年にはすべての新築の建物に適合義務が課されることになっており、あと3年もしないうちにすべての新築建物は省エネ基準を満たさなければ建築できないことになります。

 しかし、住宅の断熱や省エネを気にしている人はさほど多いとは思えません。住宅の省エネ対策は主に、屋根、壁、窓、サッシといった建物の外皮部分に対する断熱対策と、冷暖房や照明、給湯などの設備の性能を向上させることです。そうした対策を推奨する工事業者からは「省エネ住宅は電気代が安くなる」といった話をよく聞きますが、その対策の費用が回収できる期間について聞くと、ケースによるものの長期にわたることが多く、費用対効果という観点ではインパクトはさほど高くありません。

■省エネ、これまでは訴求力なく

 また、暖かい部屋から急に寒い部屋に移動することが原因の心筋梗塞などのリスク(ヒートショック)を減らせるという話を聞くこともありますが、「自分は健康に自信がある」と思っている人が多いからか、こちらもあまり強く訴求できるポイントになっていないようです。「寒いならば厚着をすればいい。暑ければ我慢すればいい」といった考え方が根底にあることも、住宅の断熱や省エネが思ったほど浸透しない理由なのかもしれません。

 とはいえ、20年以降の新築住宅は省エネ基準を満たしていないと建築できないわけですから、基準を満たしていない築30数年といった建物が経年劣化に伴って解体され、省エネ住宅に取って代わられるという流れが始まり、ゆっくりとではありますが、省エネ住宅は浸透していくことになります。

 筆者はこの流れを加速させるものが、2つあると考えています。

 1つは、省エネ住宅での暮らしを体感する人の増加です。省エネ住宅で育った子供たちが成長し、無断熱の賃貸住宅に一人暮らしするようになったときや、省エネ住宅に暮らす人が実家の無断熱住宅に里帰りしたときなど、その差にがくぜんとするでしょう。こうしたことをリアルに体感した人が増えるペースは、老朽化した建物が解体されて省エネ住宅に取って代わるスピードよりも早いでしょうから、省エネ基準を満たしていない住宅を淘汰する流れが加速すると思います。

■ローン審査に省エネの要素も?

 もう1つは、金融機関によるローン審査の方法の行方です。現在の住宅ローンや投資用不動産ローンは、建物の評価において法定耐用年数(例えば木造住宅なら22年、鉄骨住宅なら34年)を経過したら評価額がゼロという簡便な方法を採用しているケースが多いのですが、「省エネ住宅については担保評価額をアップする」という仕組みが一般的になれば、新築だけでなく既存住宅も含めて省エネ化は加速します。現在、地方銀行などが住宅の維持管理の履歴の有無やリフォーム状況に応じた建物評価について研究する動きもありますので、省エネ住宅の評価額が上昇することに現実味はあるといえます。

 いずれにせよ、省エネ住宅に移行する流れが徐々に大きくなっていくことは間違いありません。これから家を買う人も、すでに購入した住宅に暮らしている人も、これを機に省エネ住宅に目を向けておく必要があると思います。

田中歩 
 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

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