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働き方改革、残業削減だけでは失敗する 日経BP総研マーケティング戦略研究所長 麓幸子

日経BP総研マーケティング戦略研究所

2017/8/10

しかし、エンゲージメントの国際比較を見ると、先ほどの米ギャラップ社の調査でも明らかなように日本は世界最下位ランクだ。Kenexa Work Trend Surveyによる調査を見ても、トップはインドで、日本は最下位になっている(2012年)。つまり、日本はエンゲージメントが低く、働きがいを感じる社員が少なく、「ぶら下がり社員」「中だるみ社員」が発生しやすい国と言わざるを得ない。

「人は新しいことに挑戦したり、重要な仕事を任されたりして前向きな見通しが獲得できたときに働きがいを感じます。しかし、日本では仕事に停滞感を持つ人が多いですね。一部の仕事を除き、多くの仕事が3年でマスターでき、その後はマンネリ化が必至とも言われますが、日本の企業の場合、人員抑制や人手不足等により、多くの企業でジョブローテーションが停滞しており、一つの部署で長くいる塩漬け人材が発生したり、中堅社員や管理職は自分の能力を超えた過大な仕事が与えられて手一杯であるなど、働きがいを獲得できない状態が多く見られます」(山本教授)

本来は働き盛りであるはずの30代、40代の男女の5割超が仕事に停滞感を感じているという調査結果もある。

■「働きやすさ」と「働きがい」両方を高める戦略と施策が必要

では、それを改善するにはどうしたらよいのか。

「トップマネジメントサポート(能力開発の重要性認識等)、メンタリング、ジョブローテーション、社内人材公募制度、副業解禁等が効果的だといわれています。人が働きがいを感じ続けるのは難しく、ぶら下がり、中だるみ社員は必ず生まれる。しかしそれを脱却しないとイノベーションも新たなビジネスモデルも生まれてきません。組織は次々と新しい施策、工夫を続ける必要がある。いろいろな施策を導入して常に新しい刺激のもとに従業員を置くことで、組織全体の働きがいは促進され、エンゲージメントは向上する。組織に望まれるのは、戦略的に施策を展開する努力だと思います」

つまり、働き方改革のほかに、もうひとつ重要なこと――仕事のそのもの、仕事のあり方をどうするかという議論が抜けているのではないかということだ。

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループは、16年に「人を活かす会社」(日本経済新聞社)総合ランキング1位になるなど、人材活用の先進企業である。同社では、長時間労働を是正し生産性・効率性を向上させること、場所や時間の柔軟性を高める新しい働き方を推進することはもちろんだが、実に様々な施策が「働きがい創出」に結びついている。有名な「我が信条」に基づく企業文化、部下に成長を促すリーダーシップスタイル、的確なジョブローテーション、若手の頃から社員に多角的なキャリア開発の機会を提供するなど、熱意あふれる社員を生みだす仕組みがそこにはある。

日本の企業に重要なのは、高い帰属意識、貢献意識を持ち、働きがいを感じる従業員が組織に1人でも多くいることである。しかし、単に残業時間を減らすことを主眼に置いた「働き方改革」だけでは効果が限定的だ。「働きやすさ」「働きがい」双方に目を配らないといけない。そのためには、新たな経営戦略、人事戦略を策定することが必要である。メンバーシップ型からジョブ型への移行、職務の明確化、透明な評価制度、報酬、キャリアパス、キャリアコンサルティングなど、多角的なシステムの変革が求められる。

日経BP総研では2017年秋に「働き方改革フォーラム」を開始する。調査・診断で自社の「働き方」の課題を把握し、年間12回の先進事例研究会で自社に最適なKPI設定、行動計画策定などを行う。
詳細は http://business.nikkeibp.co.jp/nbs/nbsemi/workstylel2018/
麓幸子
日経BP社執行役員。筑波大学卒業後、1984年日経BP社入社。2006年日経ウーマン編集長、2012年同発行人。2016年より現職。2014年、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。筑波大学非常勤講師。内閣府調査研究企画委員、林野庁有識者委員、経団連21世紀政策研究所研究委員などを歴任。2児の母。編著書に『女性活躍の教科書』『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』(いずれも日経BP社)、『企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日本経済新聞出版社)などがある。
マーケティング戦略研究所

日経BP総研マーケティング戦略研究所(http://bpmsi.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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