じわり増加、帯状疱疹 50歳以上の女性はご用心
顔や体の片側に激しい痛みが起きた後、赤い発疹が出る帯状疱疹。これは、子どものころに感染した水疱瘡(みずぼうそう)を引き起こす「水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルス」(以下ウイルス)が原因。水疱瘡が治った後も、ウイルスは脳や脊髄の感覚神経節に潜み、虎視眈々(たんたん)と活動のときを待っている。加齢や過労などで体の免疫が低下すると暴れ出し、帯状疱疹を引き起こす。一生のうちに3人に1人がかかるといわれている。
この帯状疱疹は、夏に多くみられる。「ウイルスに感染すると、体はそれを攻撃するリンパ球を作る。初めて感染したときにできたリンパ球は徐々に減るが、水疱瘡の子どもなどに接触すると、新たに体に入ったウイルスの刺激でリンパ球が増える。そのため、水疱瘡が多い冬は帯状疱疹が抑えられるが、水疱瘡が少ない夏に増えると考えられる」と「まりこの皮フ科」の本田まりこ院長は説明する。
ここ数年、帯状疱疹は増加傾向だ。「患者数はこれまでは月に数人だったが、今はほぼ毎日来院する」と本田院長。実は、これは2014年に小児を対象に水疱瘡ワクチンが定期接種化された影響だと考えられるという。「定期接種で水疱瘡の人が減ったため、一般の人がウイルスにさらされる機会が少なくなった。そのため、体内のウイルスを攻撃するリンパ球が減少してしまったからだ」(本田院長)
帯状疱疹は、50歳以上の女性に多い。糖尿病などの持病があったり、過労やストレスなどで体の免疫が低下していると発症しやすい。こうした人が帯状疱疹を防ぐのに有効なのが水疱瘡ワクチンだ。これまで効能は「水疱瘡の予防」だけだったが、2016年に「50歳以上の帯状疱疹の予防」にも拡大された。
米国の約4万人を対象にした研究で、水疱瘡ワクチンは帯状疱疹の発症率を51.3%抑えることがわかっている。さらに、痛みが続く後遺症である帯状疱疹後神経痛も66.5%抑えられた。「帯状疱疹は、本人が気づかずに治療が遅れると、帯状疱疹後神経痛や顔面麻痺など重症化するケースも多い。単に帯状疱疹を予防するだけでなく、重症化を防ぐ観点からもワクチン接種は効果的だ」と本田院長。ワクチンは保険外で、1回のみ。1万円前後で受けられる。
まりこの皮フ科(横浜市鶴見区)院長。帯状疱疹などの皮膚のウイルス感染症のスペシャリスト。東京慈恵会医科大学附属青戸病院皮膚科教授などを経て、2014年より現職。「帯状疱疹を重症化させないためには早めに手を打つこと。発症後は一刻も早く診断を受け、抗ウイルス薬の服用を」。
(ライター 武田京子)
[日経ヘルス2017年9月号の記事を再構成]
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