2017/8/2

ビール7人夏物語

しかし、なぜ、そこまでホップにひかれてしまうのか。それは村上自身も分からない。ただ、気がついた時にはホップと一緒にいる。岩手県に里帰りした際には休みだというのに契約農家のホップ畑に車を走らせてしまう。毬花(きゅうか)の中に含まれる「ルプリン」がきちんと香っているかを確認、納得いく香りになっていれば「思わず、ホッと胸をなで下ろす」という。

普段は朝4時に起床、7時には研究を始める村上だが、ダラダラするのは嫌いだ。だいたい夕方5時になるとさっと仕事を切り上げ研究所のある横浜工場(横浜市)周辺のパブへ直行する。なじみの3軒を順繰りにまわり、新しいクラフトビールを味見、隣に顔見知りの客がいると「どうですかねえ。このビール」と感想を聞き、議論を戦わせるのが楽しみだ。

かつてキリンは国内ビール市場の6割のシェアを握っていたが

■ビール離れを阻止できるか 

少子高齢化を背景に、今、ビール業界は大きな曲がり角に来ていることは間違いない。消費量は年々減少、その一方で嗜好の多様化は加速度的に進む。かつては市場シェア60%を占めていたキリンもその構造変化のなかで右往左往する。

アサヒビールなど競合他社と激しいシェア競争を繰り広げるだけではなく、ワインや焼酎など他の酒類の台頭や、若年層のビール離れなど、大きな波が次々打ち寄せている。

その負のスパイラルに何とか楔(くさび)を打ち込み、ビール離れを防ぐには嗜好の多様化に対応するしかない。味や香り、風合いなどに個性を持たせたクラフトビールはその一つの解になるはずだ。ホップの役割もますます重要になっていく。

「20年待った。俺の出番はこれからだ」。村上は密(ひそ)かにそう考えている。

=敬称略

(前野雅弥)