間違いを指摘するとき 日本人が避けたい3つの英語
デイビッド・セイン「影の英語」(39)間違いを指摘する
ひとつの言葉は様々な顔を持っています。日本人の言葉が意図していない意味合いで伝わることもあります。日本人向けの英語教育で豊富な経験を持つデイビッド・セインさんが、日本人が使いがちな言葉から「影にある意味」を紹介します。今回は、相手の誤りを指摘する場面です。
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「どう考えてもこれは相手の意見ややり方が間違っている」という場合があります。どうでもいいようなことでしたら、特に荒立てずにスルーしてしまうのも手ですが、やはり誤りを指摘しないことには、今後困ることが起きる、あるいは今後のためにならないという場合は逃げずにきちんと伝える必要があります。
正しい訳:あなたは間違っています。
影の意味:あんた、間違えているよ。
wrongのコアイメージは「間違っている」です。こう言ってしまうと、他に解釈の余地がありません。Youが主語になったこの文は、とても批判的であり、相手を責めている言い方になります。
正しい訳:やり方をも知らないのですか?
影の意味:ちゃんとそのやり方も知らないの? この簡単なこともできないの?
Don't you know…?は知っていることが当たり前の意味。否定で尋ねることは大変失礼になります。「え~っ、知らないの?」は知らないことに対して批判的であり、また相手をバカにする表現でもあります。「こんなこともできないの?」が実は本当の意味になっています。
正しい訳:さあ、私がやり方を見せましょう。
影の意味:ほらっ!こら!???私がやり方を見せてやるからさ。
上から目線のひと言です。このような場面での Here, はこちらの「イライラ」を表すひと言になります。
これなら「影の意味」はない!
私たちはいつも別の方法でやっているんですよ。
この文のよいところは、相手のやり方を決して否定していないことです。例えやり方が間違っているにせよ、正面切って否定されれば、誰もが心穏やかではありません。a different way 「別の方法で」と自分たちのやり方を提案することで相手も素直に受け入れやすい状況が作れます。
他のやり方をお見せしますね。
これも同じです。another way to do it 「他のやり方」ということでこれも提案やおススメになります。Let me show you … 表情や口調に気をつけて言えば、決して上から目線ではありません。the right way to do it 「正しいやり方」と言うと、相手のやり方正しくないことになりますので、使うのは避けましょう。
このようにやる方がいいかもしれませんね。
It might be better to …は「~する方がいいかもしれませんね」という穏やかな提案を示す表現になります。何かを提案したり勧めたりする場合に使える使い勝手のよい表現です。そのまま覚えてしまいましょう。
あなたが知らない本当の意味―― wrong
wrongのコアイメージは「間違っている」です。そこからさまざまに使えるwrongを見てみましょう。
・Don't get the wrong impression. 誤った印象を持ってはいけません。
*wrong impression:誤った印象 このwrongは「形容詞」です。
・I'm sorry, I have the wrong number. すみません、番号を間違えました。
*電話番号を間違えたときの定番表現です。間違い電話を受けたときは I think you have the wrong number.「番号をお間違えのようです」となります。
・I'm afraid you heard wrong. 聞き間違いのようです。
* hear wrong:聞き損なう、聞き誤る 相手が自分の言葉を正確に受け取らなかった、聞かなかったときの表現です。この場合のwrongは「誤って、間違って」という意味の「副詞」になります。
I hope I'm hearing you wrong. 「聞き間違えだといいのですが」
・I know he stole the money, but he acted like nothing was wrong. 彼がお金を盗んだのは知っていますが、彼は平然と振舞っていました。
*nothing was wrongは「何も間違ってはいなかった」の意味なので… acted like nothing was wrong は「何も間違いがなかったように振舞った」すなわち「平然と、当たり前のように振舞った」の意味になります。
・I got out of the wrong side of the bed this morning. 今日は運が悪い。
*get out of the wrong side of the bedは 「(起きるときに)ベッドのいつもと違う側から降りるとその日はいいことがない、縁起が悪い」という迷信から「今日は運が悪い」の意味になります。get out of bed (on) the wrong side と言ってもOKです。
・When he talked to the press, he didn't admit any wrongdoing. 記者に話をしたとき、彼は不正行為をいっさい認めませんでした。
*wrongdoing:不正行為(名詞)
・Right or wrong, we're going to have to sell the company. よかれ悪しかれ、我々は会社を売却しなければならなくなります。
*right or wrong: よかれ悪しかれ
・What's wrong with you? どうしたの?
*相手に対する気遣いから「どうしたの?」と尋ねる場合の表現です。「何でもないよ」と答えたいのであれば It's nothing.と言えばよいでしょう。
・Something must be wrong with the air conditioner. It's really hot in here. エアコンの調子がおかしいに違いないですね。ここはすっごく暑いです。
*Something must be wrong with …:~の何か(どこか)おかしい ~には「人、物」が来ます。
・We don't have much information, so it's easy to draw the wrong conclusion. 十分な情報がないので、誤った結論を導きやすくなります。
*be easy to draw the wrong conclusion:誤った結論を導きやすい
「間違った、誤った」を表すのはwrongですが、このwrongには「道徳的に」の意味が含まれています。It's wrong to tell a lie. 「嘘を言うのは間違っているよ」は道徳的な意味合いが含まれます。ここは「嘘をつくのはよくないよ」と訳すとしっくりくるでしょう。wrongの反対語はright「正しい」になります。 right とwrongにはちょっと面白い使い方があります。 Mr. Right なら「理想の人」。I finally met Mr. Right yesterday. 「昨日ついに私の理想の人に出会ったわ」となりますが、He was Mr. Wrong. 「彼は理想の人ではなかったわ」となります。
同じ「間違った」の意味を持つ単語に incorrectがあります。in + correct で inは「否定」を表す接頭辞です。すなわち「正しくない、間違っている」の意味になります。同じ間違っているでもwrongに「道徳的な間違い」の意味があるのと違い、incorrectは「正しくない、不正確な」の意味になります。例えば The data you gave me yesterday was incorrect. であれば 「昨日あなたがくれたデータは間違っていました(正確ではありませんでした)」。すなわちデータが不正確であったことを示しています。
「事実とは違う、すなわち正確ではない」を表すのがincorrectになります。厳密に分けて使わない場合もありますが、基本的には道徳的な間違いを示すwrong、事実とは異なり不正確であると言う間違いを示すincorrect と覚えておきましょう。
Hang in there!
: D セイン
※デイビッド・セインの「ビジネス英語・今日の一場面」は木曜更新です。次回は8月10日の予定です。
米国出身、20数年前に来日。 翻訳、通訳、執筆、英語学校経営など活動は多岐にわたる。企業や学校の人気セミナー講師。英語関連の出版物の企画・編集を手掛けるAtoZ(http://www.atozenglish.jp)・AtoZ 英語学校代表。