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大企業の健康保険料 4割は高齢者の医療費に 健保組合の4分の1が「解散の危機」

2017/8/5

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 すべての人は公的な医療保険である健康保険に加入しています。主に大企業で働くサラリーマンとその家族が入るのが、それぞれの企業でつくる健康保険組合です。保険料を毎月の給料から払っていますが、いくら負担しているのか、使い道はどうなっているのかをよく理解している人はさほど多くないようです。

 「不健康な健康保険をほったらかしにしてはいけない」。全国に約1400ある健保組合を代表する健康保険組合連合会(健保連)はこんなポスターを作って、収支の悪化をアピールしてきました。

■赤字の組合、1000超

 健保連によると2017年度は赤字の組合が1000を超え、合計の赤字額は3000億円を上回る見通しです。保険料率は平均9.168%(労使合計)と10年続けて上がっており、年間の保険料負担は増しています(図)。

 加入者(被保険者と家族)がかかった医療費の支払いにあてる「保険給付費」の増加が収支悪化の原因ですが、それだけではありません。保険料収入をどう使っているのか、健保組合の支出の内訳を見ると保険給付費は全体の5割にとどまります(図)。

 目を引くのは「拠出金」の多さです。拠出金とは高齢者の医療を支援するために求められている資金負担です。(1)75歳以上が入る後期高齢者医療制度への支援金 (2)65~74歳の加入者が多い国民健康保険(国保)の財政を支える前期高齢者納付金――などです。

 毎月払う保険料は自分らの医療のためだけに使われていると思っている人もいるかもしれませんが、実は「高齢者医療のために全体の4割が使われている」(社会保険労務士の上野香織氏)のです。

■拠出金、加入者の医療費上回る?

 拠出金の総額は17年度に3兆5000億円を超える見通しです。労使合計の数字ですが、被保険者1人当たりでみると年間約21.5万円に上ります。健保連が内々にまとめた試算では25年度には4兆5400億円まで膨らみ、加入者の医療費を上回るようになります。平均の保険料率も11.8%に上昇し、4分の1の健保組合が解散の危機に追い込まれるとしています。

 現在の高齢者医療支援の仕組みは、08年度の後期高齢者医療制度の導入に合わせて始まりました。主に中小企業の社員が入る全国健康保険協会(協会けんぽ)も同じように負担しています。

 ただ、協会けんぽには年1兆円を超える国の補助金が投じられています。後期高齢者支援金については、給与水準が高い人が集まるほど負担を多く求められる仕組み(総報酬割)が導入されました。このため、健保組合の負担は全般に重くなっています。

■「特効薬」見当たらず

 各健保組合は加入者に適切な受診や病気予防を働きかけたり、独自の給付を減らしたりする自助努力を続けています。一方で国に対しては「拠出金に上限を設けることや適切な税金の投入を働きかけていく」(健保連)予定です。

 増え続ける高齢者の医療費に、国も能力に応じた負担を高齢者に求める「応能負担」を打ち出しています。とはいえ「今の負担構造のままでは早期に効果を発揮する『特効薬』は見当たらない」(ニッセイ基礎研究所の篠原拓也主任研究員)のが現状です。

[日本経済新聞朝刊2017年7月29日付]

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