破綻寸前から大逆転、女性にも人気のカプセルホテルにカプセルホテルの変革者(上)

先のデザイナーが降りた後、油井氏はカプセルユニットのデザインを担当することになっていた柴田氏に、改めてコンセプトづくりを依頼した。「資金的余裕がないことはわかっていましたし、高額なデザイン料をとれるとも思いませんでした。それよりも何かおもしろいことができそうだという期待のほうが大きかった」と柴田氏は言う。二人は約2年間、協力してくれる専門家や業者を訪ねながら、目指す方向を探った。その間、油井氏は柴田氏から何度も「私はあなた自身の中にあるものしかデザインできない」とくぎを刺されたという。

カプセルホテル「ナインアワーズウーマン神田」のカプセルユニット

本質を削り出していくのがデザイナーの仕事だ。「『こうしたい』と柴田さんに伝えるのは、自分の内面をさらけ出すようで恥ずかしかった」と油井氏は回想する。試作したカプセルユニットの原寸大模型を目にした時、彼は「俺が見たかったものはこれだったのか」と思ったそうだ。

ミニマムなカプセルホテルに内外メディアも注目

従来のカプセルホテルのイメージを覆す、白を基調とした清潔で洗練された空間。「シャワー(1時間)」「睡眠(7時間)」「身支度(1時間)」、合わせて9時間の機能に特化したミニマムなサービス。09年12月、京都の繁華街に近い場所にナインアワーズ1号店が開業すると、国内外のメディアから取材が殺到した。

生体リズムに合わせて光をコントロールするなど、良質な眠りにこだわったカプセルホテルは先入観のない海外の人たちに好意的に受け止められ、ナインアワーズのデザインチームはその後、国内外のデザイン賞を総なめにした。こだわり尽くしたアメニティーは英月刊誌が主催するデザインアワードで、海外の一流ホテルと並び「ベストホテルアメニティー賞」にも選ばれている。

「この時点で私には多店舗化のノウハウが不足していました」と油井氏は語る。そこで企業経営支援会社「リヴァンプ」の沢田貴司氏(現リヴァンプ会長でファミリーマート社長)に相談すると、不動産事業に詳しい社員の松井隆浩氏を紹介された。13年、法人としてのナインアワーズを設立すると、松井氏はその最高経営責任者(CEO)に就任した。

ナインアワーズは現在、創業者の油井氏とCEOの松井氏による二人三脚で経営している。途中、京都店の不動産オーナーが倒産し、それに伴う所有者の入れ替え手続きなどで一時的に閉鎖を余儀なくされる出来事もあったが、すぐに営業を再開した。2号店からは遊休地を所有するオーナーやデベロッパーと協力し、運営のみを担当する形で多店舗展開している。京都、成田空港、仙台、北新宿、神田の5店舗を合わせた利用者はのべ約70万人。利用者の国籍も約50カ国と幅広い。

「今はまだ単に安いからという理由でカプセルホテルを選ぶ人が多いと思いますが、ナインアワーズはよりアクティブに都市を楽しみたい人に利用してもらいたい」と油井氏。東京の竹橋や蒲田、浅草などで、すでに複数のプロジェクトが同時並行で進んでいる。「20年の東京五輪までに50店舗」が当面の目標だ。

次回はデザイナーの柴田氏に、ナインアワーズ発想の原点を聞く。

(ライター 曲沼 美恵)

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