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ヒットの原点

破綻寸前から大逆転、女性にも人気のカプセルホテルに カプセルホテルの変革者(上)

2017/8/3

ナインアワーズ創業者の油井啓祐氏

 日本生まれのカプセルホテルが海外から注目を集めている。そのきっかけをつくったのが、ナインアワーズ(東京都港区)だ。創業者の油井啓祐氏はベンチャーキャピタル大手、ジャフコの出身。父親の急死に伴い、期せずしてカプセルホテル事業に携わることになった。どのような曲折を経て、現在のナインアワーズにたどり着いたのか。

◇   ◇   ◇

 2017年7月下旬のある日、JR神田駅東口を出てすぐの狭小地に立つ「ナインアワーズウーマン神田」で内覧会が開かれた。ナインアワーズとして展開する5つめの店舗で、初の女性専用施設となる。案内に立った同社執行役員の渡辺保之氏によると、「女性からの問い合わせは以前から多く、既存施設に関しても女性用カプセルから先に予約が埋まることが多かった」という。

 数あるカプセルホテルの中でも、ナインアワーズはそのデザイン性の高さに定評がある。繊維強化プラスチック(FRP)製のカプセルユニットは日本で今、最も活躍するプロダクトデザイナーの一人、柴田文江氏の手によるもの。柴田氏はナインアワーズ全体のクリエイティブディレクターでもある。サインやグラフィックは広村正彰氏、インテリアは中村隆秋氏が担当するなど、デザインチームはいずれも一流ぞろい。さぞや資金的に恵まれたプロジェクトだったのだろうと想像したくなるが、実際はその逆だ。

■遺産相続でカプセルホテルと関わるように

 創業者の油井氏は当初、「カプセルホテルについてはネガティブな印象しか持っていなかった」と語る。大学を卒業後、ジャフコに入社。米アップルに投資するなど、シリコンバレーの礎を築いたことで知られるアーサー・ロック氏に憧れて、ベンチャーキャピタリストになった。ジャフコでは、IT(情報技術)を専門とする国内ベンチャー企業への投資業務に携わっていた。

 「自らは舞台に上がらず、影の存在に徹する姿に美学を感じていた」という。そんな彼がカプセルホテルを経営するようになったのは、1999年、父親の急死がきっかけだった。

 「父は東京・秋葉原でカプセルホテルを経営していました。オープンしたのは89年です。銀行系の不動産会社が所有していた土地と建物を借り、内装投資をした上で事業をしていました。バブル経済のピークに借金をしたため、ずっとその返済に追われていたようです。私がその事実を知ったのは、父が亡くなった日のこと。会社の財務諸表を見たら、借金が5億円でキャッシュが1000万円。あと2、3カ月で破産という状況でした」

 周囲には相続放棄を勧められたが、油井氏は悩んだ。「父が10年間抱えてきた苦しみを捨ててしまうのは、それを否定することになる」と思ったからだ。結局、債務含みで事業を相続する決断をし、勤めていた会社を辞めた。

■旅館・ホテル業界の「底辺」でもがく

 カプセルホテルは、旅館業法で「簡易宿所」に位置づけられている。客室の延べ床面積が33平方メートル以上でなくてはならないなどの決まりがあるほか、条例で基準を設けている自治体もある。当初、彼はそんなカプセルホテルを経営することに葛藤があり、父の代から勤めていた支配人に現場を任せ、銀行や不動産会社と折衝するなど財務面だけを見ていた。

 「常に最先端のビジネスに触れる仕事をしていたのに、目の前にあるのはローテクそのもの。ホテル業界では底辺に位置すると見られ、プロがほとんどいない世界でした」

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