見過ごしがち 認知症患者の「お口トラブル」

日経Gooday

2017/8/4

介護に備える

認知症患者は、口の中のトラブルをうまく伝えられないことも多く、それがさらなるトラブルにつながることも(c)Michael Heim-123rf
認知症患者は、口の中のトラブルをうまく伝えられないことも多く、それがさらなるトラブルにつながることも(c)Michael Heim-123rf
日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

認知症になると、口の中にトラブルがあってもうまく伝えられない場合が多く、そのせいで食事ができなくなり、栄養が低下して寝たきりにつながってしまうこともあるという。虫歯(う蝕)、歯周病、口腔粘膜の傷、炎症など、認知症高齢者の口腔内に起こりやすいトラブルについて、東京都健康長寿医療センター研究所の枝広あや子さんに話を伺った。

認知症になると歯磨きが難しくなる

認知症の人は口の中にトラブルが起こりやすい。その一番の原因は歯磨きがおろそかになるためだという。枝広さんは「認知症になると比較的初期の段階で『整容行動が崩れる』という変化が起こります。これが、歯磨きができなくなる原因の一つです」と話す。

「整容行動が崩れる」とはつまり、本来習慣化された自分のメンテナンスができなくなることである。衣服の着方が崩れる、髪をとかすのが面倒になる、顔や手をきちんと洗わなくなる、風呂に入りたがらなくなるなど、身なりをきれいにするとか、体を清潔に保つといったことがおろそかになる状態だ。歯を磨かなくなる原因の一つも、歯をきれいにすることに興味がなくなり、習慣化された行動自体がおっくうになってくることにある。

歯を磨かなくなるもう一つの原因は、認知症の人にとって、直接見えない口の中を、頭でイメージしながら磨くことが難しいためだ。「認知症でない人は、テレビを見ながらでも隅々まで歯磨きができます。右上を磨いたら次は左上、左下の次に右下といったことを、ほぼ無意識のうちに行えるわけです。しかし、認知症の人はどこまで磨いたのか分からなくなってしまいます。その結果、やり直すことも面倒になり適当に終わらせてしまうことが増えるのです」と枝広さんは話す。

問題は、歯をきちんと磨いているかどうかは、はたから見ているだけではよく分からないということだ。歯ブラシを口の中に入れていれば、「ああ、磨いているな」と思うが、本当に磨けているかどうかは家族でもなかなかチェックできないのだ。

認知症も軽度から中等度に進行すると、細かい手の動きが難しくなったり、歯を磨くという日課そのものを忘れがちになったりする。そして、歯を磨かない状態が続くと、虫歯や歯周病で大切な歯を失ってしまうことになる。

家族であっても親の口の中を把握している人は少ないし、口の中というのは、特に本人に自立したい気持ちがある時期には、なかなか確認できないものである。

「定期的に歯医者さんに行っていれば、かかりつけの歯医者さんが、前回に比べて口の中の状態が悪くなっているなどと気づくため、磨けていないのかもしれないと対処してくれる可能性も高いでしょう。でも、歯医者さんに行っていないとなかなか発見しづらいのが口のトラブルの特徴です」と枝広さんは指摘する。

急に食べなくなったら口の中に問題があるかも!

さらに、認知症も中等度以上になると、口の中にトラブルがあっても、それを伝えること自体が難しくなってくる。そのために、重大なトラブルが見過ごされてしまう場合も多い。

「例えば、ある施設で実際にあったことですが、昨日まで食事をしてくれていた認知症の高齢者が、急に口を開けてくれなくなり、ご飯を食べない、歯も磨かせてくれないという状態になったんです。数日後、ようやく口の中を見せてくれたのですが、大きな口内炎ができていたようで、すでに治りかけの状態でした」と枝広さん。

この人の身に何が起こったのか。実は数日前、家族がお菓子を差し入れに持ってきた。その袋に入っていた乾燥剤(シリカゲル)を間違えて食べてしまい、口内炎を発症していたのだ。

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