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垣渕さんが依存症やその予備群の人に対して、飲酒量を減らすために推奨しているのが「飲酒量の見える化」なのだという。

「記録をとり『飲酒量を見える化』するのが、飲酒量を抑えるための大きなポイントとなります。次の項目を表にして、日々記録してもらいます。(1)目標とする飲酒量、(2)何をどれだけ飲んだか、(3)それを満たしたかどうか(○×でチェック)、(4)休肝日(連続して2日)が取れたかどうか、(5)運動の有無――の5つです」(垣渕さん)

「そして肝心なのが、チェック表ができたら周囲に宣言することです。そうすることで、周りの手前、なかなか節酒をやめにくくなります。この記録を奥様などにも確認してもらって、チェックをつけてもらうとなお効果的です。また定期的に計測したγ-GTPの数値などを書き加えておくのもいいでしょう」(垣渕さん)

垣渕さんによると、目標を達成することで、何が得たいかを設定しておくことも大切だという。目標はγ-GTPの数値の改善、夫婦仲の修復など何でもいいそうだ。「要は自分にとってご褒美となる目標を設定すればいいのです」(垣渕さん)

無理な目標設定はリバウンドのもと

では、目標を決める際、飲酒量はどう設定すればいいのだろうか。

垣渕さんによると、「無理な目標設定はリバウンドのもと」だという。実際問題、日々60g以上のアルコールを摂取している人が、いきなり20gにするのは無理がある。まずは40gを目指し、続けてできるようになったら30gといったように、少しずつでもいいから段階を経て減らしていくほうが無理がなく現実的だ。

「ダイエットと同じく、飲酒量をレコーディング(記録)することで、自分のアルコール摂取の実態が明確になります。そして家族の応援も得られます。飲酒記録を行った方々で、健康を取り戻した方は多くいらっしゃいます」(垣渕さん)

実際、特定保健指導の対象者に該当し、AUDIT10点以上もしくは週21ドリンク(1ドリンクは純エタノール10g)以上の男性飲酒者55名に対し、6カ月間の生活習慣記録表(飲酒記録)を取り入れた3回の集合教育を行ったところ、AUDIT得点、飲酒量、腹囲、体重、拡張期血圧、ALT、γ-GTPが有意に減少し、善玉コレステロールであるHDLコレステロールが有意に増加したという報告もある(労働科学. 2013;89(5):155-165.)。なお、メタボリック症候群と予備群を合計した割合は、55人中49人(89.1%)から31人(56.4%)に減少したという。

垣渕さん曰く、アルコール依存症の人は「頑固で人の言うことを聞かない方が多いです。そうでない方は、病院に来る前に周囲の話を聞いて、断酒や節酒に成功しているはずですから」という。しかしこれだけ顕著に数字として結果が出せるなら、頑固な人でも「やってみようかな?」と思うのではないだろうか? 私もこれなら続けられそうだ。

アルコール依存症や予備群にならないために、他に気をつけるべきポイントはないだろうか。

「飲酒習慣は、何かイベントがある時に飲む『機会飲酒』、イベントがなくても飲む『習慣飲酒』、そして飲む時間や場所をわきまえなくなる『強迫飲酒』と進行します。ローリスクなのは、『機会飲酒』までです。晩酌は『習慣飲酒』の一種です。量が増えず、酒害は起きていなくても、飲まないと何となく物足りないという気持ちがある場合『常用量依存』となっている可能性があります。いわばミドルリスクです。その先、『寂しい』『休日だから』『不眠だから』と理由をつけて飲酒量・時間が増え出すとハイリスクとなり、引き返しにくくなります」(垣渕さん)

うーむ、休日だからと昼から飲む自分を戒めなくては……。

◇  ◇  ◇

人生を悲しい結末で終わらせないためにも、飲み過ぎだと自覚がある人は、飲酒の記録をつけ現状をきちんと把握し、少しずつでも酒量を減らしていくように努力する。できれば、アルコール換算で1日20gの適量に近づけるようにしたい。とにもかくにもまずはAUDITでセルフチェックをしてみてはいかがだろうか。

垣渕洋一さん
 成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長。1994年、筑波大学大学院医学専門学群博士課程修了。同大学附属病院などでの研修の後、2002年より成増厚生病院に勤務。臨床業務に加え、日本精神科看護協会、日本精神科病院協会、地域の保健所、自助グループなどで講師としても活動中。『セルフケア・シリーズ アルコールこうしてつきあう』(保健同人社、2008年)の監修などを手掛ける。

(エッセイスト・酒ジャーナリスト 葉石かおり)

[日経Gooday 2017年7月4日付記事を再構成]

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