昼ドラ、会えるアイドル… シニア世代にヒットの宝庫
シニア市場で特徴的なヒットが次々に生まれている。
シニアの心をがっちりとつかんだのが、2017年4月に放送を開始した「やすらぎの郷」(テレビ朝日系。平日12時30分~)。脚本家・倉本聰が企画したもので、舞台は老人ホーム。しかもテレビに貢献した俳優や脚本家だけが入居できる、という斬新な設定だ。キャストに石坂浩二、元妻の浅丘ルリ子、加賀まりこら往年のスターをそろえたことも話題となり、初回視聴率は8.7%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。他局の情報番組を抑え、ゴールデンタイムの連ドラに拮抗する数字で業界を震撼させた。
4月から2クールにわたって20分枠で放送されており、NHKの朝ドラのような見やすい長さとテンポもヒットの要因に。ドラマでは高齢者の友情や切ない恋、死への恐怖などがコミカルかつシリアスに描かれ、同世代の共感を呼ぶ。同時に「テレビをだめにしたのはテレビ局そのもの」といったテレビ批判や業界裏ネタも描き、SNSなどで話題が拡散した。
ドラマ評論家の成馬零一氏は、「高齢化で視聴者の年齢は上がっているのに、なぜか高齢者を狙ったドラマはなかった」と話す。「ドラマは若者向け」というマインドが抜けておらず、シニアはまさかの空白区だったのだ。
電通総研シニアプロジェクトの斉藤徹氏は、「若い人は高齢者の悩みや思いを理解しかねる。年を重ねた倉本氏だから書けるシニア向けの脚本で、往年のスターがそれを演じることでさらなる共感を呼んでいる」と分析する。「見た目は高齢者だが、内容は『学園モノ』と同じ。恋愛や友情の話もあって面白い」(成馬氏)。「高齢者だって恋をする」というリアルなストーリーが、同世代の共感を呼んだ。ドラマの随所に盛り込まれている倉本らしい痛烈な「テレビ批判」や、"逃げ恥"の「恋ダンス」のような「やすらぎ体操」など、貪欲な仕掛けも奏功した。
40~50代の「健康センター」アイドル
リアルな老いの姿をドラマで見つめつつも、昭和歌謡で青春時代を思い出し、「気分だけでも若返りたい!」というニーズから生まれたヒットもある。
40~50代の女性やシニアが夢中なのが、健康センターを中心に活動するアイドルグループ「純烈」だ。熱狂的なファンがテレビに取り上げられたことで注目され、一気にブレークした。
健康センターでの活動を地道に続け、最新シングルがオリコンデイリーCDシングルランキング1位(3月13日付)になるまで上り詰めた。あえてムード歌謡を武器に選び、40~50代女性やシニアのハートをつかんだ。結成後しばらくは伸び悩んでいたが、純烈の熱狂的なファンを取り上げた深夜番組が昨年秋に話題となり、知名度が急上昇。3月に発売したシングルの売り上げは約4万枚を記録した。ライブでは、メンバーが客席に下りてファンと握手して回るなど、"会えるアイドル"であることも人気の要因だ。
中高年を中心に人気を集めるタレントは他にもいるが、純烈の強みは5人組であること。「推しメン」を選べる楽しさがシニアにも受けている。また、イベントではCD販売と同時に、購入者特典としてメンバーとの撮影会も行いファンの数を地道に増やす。「会いにいける」「推しメン」「撮影会」の三拍子がそろった、演歌・歌謡曲界の「AKB48的ヒット」ともいえる。
昭和歌謡の合唱がブームに
シニアの間では合唱がブームとして盛り上がりつつあるが、なかでも人気なのが、昭和歌謡の合唱。大学のコーラスグループなどが歌謡曲やフォークソングを合唱で歌い上げる「日本名曲アルバム」(BS-TBS)が特に注目されており、番組のコンサートにはシニアが殺到するほど。なじみ深い歌謡曲を若い世代が合唱するというギャップがシニアに響いているようだ。
(日経トレンディ編集部)
[日経トレンディ2017年8月号の記事を再構成]
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