自撮りなら「撮って!」 一緒に出かけたい小型ロボ
ヘッド部にカメラとマイク、CPUを備え、ボディー部にスピーカーやバッテリー、駆動装置を搭載した、一辺が約7.5cmの立方体の「2頭身」ロボットが「PLEN Cube」だ。
注目のポイントはカメラ機能が非常に充実していること。音声認識やヘッド部を回しながら被写体を自動追尾する機能、IoT技術による家電制御、さまざまなWebサービスが利用可能など、できることが盛りだくさんである。この多機能を、持ち歩けるコンパクトサイズにどうやって詰め込んだのか。「アマゾン エコー」や「グーグル ホーム」など、AIを搭載した音声アシスタントスピーカーが注目を集めるなか、PLEN Cubeはどのようなポジションを狙うのか。開発を進めるベンチャー企業、プレンゴアロボティクス(大阪市)社長の赤澤夏郎氏に話を聞いた。
外出時は"有能なカメラマン"
――立方体でコンパクトなとても風変わりなロボットですね。どんなことをしてくれますか?
赤澤夏郎氏(以下、赤澤氏): Wi-Fi環境下で、人の声の指示(トリガーワード)に従って、さまざまなタスクをこなしてくれるサービスロボットです。自宅では、「テレビをつけて」「エアコンの温度を下げて」「音楽をかけて」などの指示があれば実行し、天気情報などのWebサービスもディスプレーに表示します。音楽に合わせてヘッドを上下に振ったり、傾けるなどコミカルに「踊る」こともできます。人の生活をアシストする、いわば「執事」のような役割を果たしてくれます。
外出先では、充実しているカメラ機能を存分に発揮します。「写真を撮って」と言えば静止画を、「動画を撮って」と指示すれば、動画を撮ってくれます。ヘッド部が360度回転するため、パノラマ撮影も可能。顔を自動追尾する機能を備えているため、ヘッド部を自動的に回しながら、被写体を追いかけて静止画や動画を撮影することもできます。さらに、指向性マイクを内蔵し、声をかけた方向に自動でレンズを向けさせることも可能です。大勢で集まってBBQやパーティーを行うとき、1カ所に置いておくだけで、さまざまな方向から声をかけて、それぞれのシーンを撮影するなど、カメラマンのような役割を任せられます。撮影した静止画や動画はその場でSNSに投稿するように設定することもできます。静止画はフルHD、動画はHD対応なので、画質も十分。手のひらに載る小型サイズのため、外出時に無理なく持ち歩けることもメリットです。
――声をかけた方に向いてくれるのは、いかにもロボットらしさを感じさせる動作ですね。まるで有能なカメラマンを随行させているような便利さもある。なぜ、そこまでカメラ機能にこだわったのですか?
赤澤氏: 率直に言えば、「外に持ち出したくなるロボットを作りたかったから」です。今、海外では音声認識機能を持ち、持ち主の声による指示に対して、質問に答えたり、家電制御、音楽再生、ネットショップ、宅配サービスの注文など、生活をアシストしてくれる音声スピーカー「アマゾンエコー」や「グーグルホーム」などが急速に普及し始めています。しかし、それらは家の中で使うのが大前提で、外出先で使うようなものではない。あるいは、日本ではペッパーなどの商用ロボットが見られますが、大型かつケーブルにつながれているので、これも外出先に連れていく類のロボットではありません。こうした状況の中、私たちはロボットの新たな可能性を開くため、とにかく屋外に持ち出せるロボットを作ろうと考えました。
では、どうすればユーザーが外出先にも持って行く気になってくれるか。そこで、思い付いたのがカメラ機能を充実させることです。皆さん、外出先や旅行先で、スマホを使って撮影することが当たり前になっているじゃないですか。特に若い女性はグループで旅行するときなどにスマートフォン(スマホ)やGoProなどのアクションカムを駆使して、数多く撮影しています。つまり、外での撮影ニーズは大きく、声をかければ勝手に撮ってくれるロボットがいれば、重宝するのではないか、便利であれば外にも一緒に連れて行ってくれるのではないか。そう、考えたわけです。
小さなきょう体に機能を満載できた3つの理由
――家庭でも外出先でも使える機能が数多く詰め込まれていますね。これだけの機能を一辺が7.5cmの立方体のきょう体に収めることができたことは画期的です。
赤澤氏: 音声認識や指向性マイク、顔認証自動追尾、静止画・動画撮影など使っている技術は非常にシンプルです。例えば人のいる方向にヘッドを向かせることも、高度な機械学習的な処理を使うのではなく、指向性マイクを使って声がした方角にヘッドを回して向くような単純な仕組みを採用しています。高度な技術を用いようとすると、時間もコストもかかりますが、シンプルな技術の組み合わせであれば、それらを大幅に削減できます。
さらに、私たちは2004年から小型ロボットを開発しているロボットベンチャーであり、ホビー用や研究・教育向けに、これまでに「PLEN」「PLEN2」という2体のロボットを世に送り出していることも強みです。小型ロボットの開発では、小さなきょう体にいかに多くの機能や装置を詰め込めるかを突き詰めており、その技術力が今回の「PLEN Cube」の開発でも存分に生きています。
――音声認識やIoT技術による家電制御などはどのように実現していますか?
赤澤氏: それらは、クラウドサービスを利用しています。例えば、家電制御のハブを開発し、クラウドで提供しているベンチャー企業と協力。そのハブに自宅で使っている赤外線リモコン対応のテレビやエアコンの商品名を登録すると、PLEN Cubeへの音声の指示で、スイッチを付けたり、消したり、テレビの選局やエアコンの温度の上げ下げなどの操作が可能になります。音声認識技術もクラウドサービスを活用しています。そうした機能の全てをモジュールとして実装すればきょう体内に収まり切らなくなり、コンパクト化できず、コスト面でも高くつきます。クラウドサービスを活用することで、それらの課題を払拭でき、開発スピードも速くなります。
――PLEN Cubeに天気を聞くとディスプレーに表示してくれたり、音楽をネット上のサービスを利用してストリーミング再生してくれるなど、Webサービスにも対応していますね。これはどのように実現を?
赤澤氏: WebサービスとIoT機器を連結させるサービスである「IFTTT」(イフト)を活用しています。IFTTTを使えば、「Web上の天気情報サービス」とPLEN Cubeを連携させ、天気をディスプレーに表示させるといったことができるようになります。音楽のストリーミングサービスも同様です。あるいは、今後照明やテレビ、エアコンでIoT技術に対応している製品が普及した場合、それらとPLEN CubeをIFTTTを介して連携させ、家電制御することも可能になります。つまり、小型ロボットの開発力、クラウドサービス、IFTTTの活用の3点で、高機能コンパクト化を実現しているわけです。
――IFTTTを使えば、Webサービスを用いた機能拡張がいろいろ行えて、可能性がより広がりますね。
赤澤氏: そうです。他にも高齢者の自宅にPLEN Cubeを置いておき、見守りロボットとして使うこともできます。想定としては、FacebookのライブストリーミングサービスなどとIFTTT経由で連携し、親族などが高齢者をスマホなどを通じて遠隔で見守る方法などが考えられます。ヘッドが360度回転するので、部屋の中の様子をくまなく確認できることが利点です。これは、他社との協業でPLEN Cubeを用いた見守りサービスとして提供していくことも模索しており、今、話を詰めている最中です。
中国大手EMSと組み、ロボットの大衆化を狙う
――ジェスチャー機能も搭載する予定ですね。実際にはどのように使うのですか?
赤澤氏: 音楽が鳴っているときは、ユーザーの音声による指示が受けづらくなります。そうしたときにジェスチャー機能も必要ではないかと考え、装備しています。PLEN Cubeに向かってすぐ近くで指をくるくる回してボリュームの上げ下げをしたり、左右に指を振って曲送り・戻しをするなどが、今のところのアイデアです。
――PLEN Cubeの開発では、2017年4月に米クラウドファンディングサイトの「KICKSTARTER」で約900万円の調達に成功し、続いて日本でも「Makuake」に支援プロジェクトを立ち上げ、17年8月23日まで展開していますね。
赤澤氏: もともと世界で売り出そうと考えていて、まずはKICKSTARTERを活用し、その後に日本語版の開発資金を調達するためにMakuakeでも支援プロジェクトをスタートさせました。実は、KICKSTARTERは以前、小型ロボットのPLEN2を開発するときも使っています。そのプロジェクトを見て、中国の大手EMSで、スマホのスピーカーや家庭用ゲーム機のコントローラーなどを生産するゴアテックが、「一緒に新しいロボットを開発しないか」と声をかけてくれたのが、そもそもの発端です。その後、商談が進み、合弁会社プレンゴアロボティクスを16年3月に設立し、本格的な開発が始まりました。
私たちが行ってきた小型ロボットの生産数は数百台レベルですが、ゴアテックのような大手と組むと、数千台、数万台と一気にスケールアウトします。まずはファーストロット1000台で生産を始め、今後もユーザーテストなどでフィードバックを得て、少しずつ中身とサービスを増やしていく中で、生産数は段階的に増やしていきたいと考えています。
――発売時期や販路について教えてください。
赤澤氏: KICKSTARTERの支援者に対する完成品の発送は2017年内、Makuakeの支援者への日本語版の発送は2018年6月の予定で、同じ6月ごろにおそらく家電量販店などを通じて販売していくことになると思います。従来作ってきた初代の小型ロボットPLENは25万円程度、PLEN2は10万円程度でしたが、今回のPLEN Cubeはディスプレー付きで6万円、ディスプレイなしで4万円の価格設定です。外出時に手軽に持って連れ出せる新しいジャンルのロボットとして、大衆化され、一般に普及させることができればと考えております。
[注]ロボットの仕様や指示するときのトリガーワードは最終製品で変わる可能性があります。
(文 高橋学、写真 古立康三)
[日経トレンディネット 2017年7月6日付の記事を再構成]
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