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為替は理屈では勝てない 大切なのは流れに乗る俊敏さ すご腕為替ディーラーの至言(柳澤義治)

2017/8/1

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 21世紀に入るか入らないかのころまでの外国為替市場はストラテジストの予想やインターネットなどの情報がまだ少なく、ディーリングは直感に頼らざるを得なかった。「すご腕為替ディーラーの至言」、今回は外為証拠金(FX)会社オアンダ・ジャパン社長の柳澤義治氏。発展途上の外為市場で、柳澤氏は百戦錬磨のディーラーが集った1980年代の米バンカース・トラスト(現ドイツ銀行)などでキャリアを積んだ。(以下談)。

■ファンダメンタルズでは語れない

 アナリストやストラテジストは予想をする際によくファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を持ち出します。為替レートは購買力平価や貿易収支で決まるとの主張もファンダメンタルズ理論です。でもよくよく考えると、購買力平価に深くかかわるインフレ率や貿易統計は得てして為替相場に左右されます。為替がファンダメンタルズを動かしているわけです。こうなると「ニワトリが先か、卵が先か」の世界で、因果関係がはっきりしません。

 金融・資本市場を流れるお金の規模は20~30年前とは比較にならないほど大きく、かつ複雑化しています。為替相場を一律に解き明かせる方法などないと割り切るべきでしょう。ファンダメンタルズ分析の基礎資料である景気指標も、米雇用統計や各国の国内総生産(GDP)のような重要な統計データでさえ過去にさかのぼって修正を繰り返します。あまり当てにはできません。

■為替からファンダメンタルズを占う動きも

 研究者もそのあたりは気づいていて、実際の注文状況などの膨大なマーケットデータを基に相場予想を試みる「経済物理学」のアプローチが既に始まっています。将来は為替市場からファンダメンタルズを占う流れが定着するかもしれません。

 実際の取引では「相場は理屈だけでは勝てない」と痛感すると思います。ディーリング歴が長くなると「何だかよくわからないけど動いたほうに付いたらうまくいった」といった類いの成功体験が積み上がってくるものです。特定の相場シナリオへのこだわりはよくない。大切なのはマーケットに先入観なく向き合い、需給の少しの変化も見逃さずに流れに乗る俊敏さでしょう。

■「ショック」を常に意識

 どんな市場でも多かれ少なかれ行きすぎ(オーバーシュート)が起こり、その反動がしばしば「ショック」と呼ばれる混乱をもたらします。例えば10年前の8月にはフランスのBNPパリバ傘下のヘッジファンドが解約を止めたことをきっかけに「パリバ・ショック」が発生し、低所得者向けの住宅ローンを巡る「サブプライムショック」や「リーマン・ショック」につながりました。ショック局面では投資家の間でパニックが広がっているので理屈は通じません。

 ここ数年はコンピューターを使った自動取引の発達により、ショック発生の頻度が格段に高まりました。相場が瞬時に急落する「フラッシュクラッシュ」も頻発しています。「相場は荒れる」と割り切って取引に臨むべきでしょう。

■チャート分析の難しさ

 バンカース・トラストで中山茂さん(現個人投資家)、次に移ったドイツのBHF銀行で堀内昭利さん(現AIAビジネスコンサルティング社長)と、日本を代表する2人の為替ディーラーのもとで仕事をしました。堀内さんは需給分析の達人で、いまも現役です。プレーヤーの動きをつぶさに観察し、特定の時間帯にあらわれる注文の傾向を見極めて1歩も2歩も先回りします。ロンドン市場でドル売りが出るとにらんだら先回りしてドルを売り、ニューヨーク市場でドル買いが入ると判断すれば前もってドルの買い手に回るのです。その姿には驚くばかりでした。

 堀内さんの域に達するのは到底無理だと、チャートなどのテクニカル分析を用いたディーリングに傾いたのですが、極められたかはわかりません。足元ではチャート分析はもっと難しくなったと思います。どの組み合わせ(通貨ペア)もスプレッド(売りと買いの差)が狭くなり、チャート上は動いているように見えても実際にはたいした値幅ではないことが多く、大局観をつかみにくいのです。為替理論に決定版はないということをしみじみ感じています。

柳澤義治
 1981年にバンカース・トラスト銀行に入行し、独BHF銀行と英HSBC銀行でインターバンク(銀行間取引)ディーラーを務めた。97年に米ステート・ストリート銀行に移籍し05年から東京支店長。12年に外為証拠金(FX)業界に転じて14年から現職。

【記者の目】

 外為取引は今も昔も基軸通貨である米ドルを中心に動く。クロス取引は組み合わせる通貨だけでなく、米ドルの動向にもしっかりと目配りしなければならない。例えばポンド・マルクはポンド・ドルとドル・マルクの相場の影響をそれぞれ受ける。複数のクロス市場で生き残るには広い視野を持たなければ難しい。「クロスに精通すれば為替ディーリングの『コツ』がだいぶ見えてくる」。バランスのとれた柳澤氏の話を聞きながらそんなことを考えた。

〔日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今晶〕

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