失業手当の給付日数が延長 離職者への支援手厚く会社員が知っておきたい雇用保険(1)

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筧家の休日の昼下がり。会社の同僚とショッピングに出かけていた恵が帰宅し、デパートの地下で買ったスイーツを幸子に見せています。ダイニングテーブルでお茶の準備をし始めると、テレビでスポーツ観戦していた良男が声を掛けてきました。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 筧良男(かけい・よしお、52=中)  筧恵(かけい・めぐみ、25) 

良男 おいしそうなケーキだ。父さんの分もあるかな。

 大丈夫よ。それにしてもショックだったな。

幸子 同僚とショッピングを楽しんだのじゃないの?

 女子社員の間でも「仕事ができる」って評判だった30代の先輩社員が退職するの。夫の転勤に同行するそうよ。家庭も仕事も両立させ、きっと管理職まで上り詰めると思っていたから、びっくりしたわ。

良男 せめて失業手当がもらえるよう、ハローワークで手続きするといいな。

幸子 そうね。ただ、失業手当、つまり雇用保険の基本手当は退職すればだれでももらえるわけではないの。恵の先輩は10年ほど働いてきたようだから大丈夫だと思うけど、原則として退職前の2年間に通算して12カ月以上、雇用保険に加入していたことが必要条件よ。基本手当をもらえる日数も退職時の年齢や雇用保険の加入期間、退職理由で違ってくるの。

良男 基本手当は退職したらすぐに受け取れるのかな。

幸子 基本手当の受け取りの流れを説明するわね。会社の倒産や解雇など「会社都合」で退職した場合、ハローワークで求職の申し込みをしてから7日の待機期間を経ると基本手当を受け取れるようになるわ。転職のためなど「自己都合」で退職した場合は、7日に加えて3カ月の「給付制限期間」を経てからもらえるようになるの。

 基本手当がもらえる期間はどれくらいなの?

幸子 受給期間は原則1年。その間に申請しないと支給されないわ。例えば、30歳未満で雇用保険の加入期間が5年以上10年未満の人が会社都合で退職すると120日分が支給されるけど、申し込みが遅れて受給期間が3カ月しか残っていないと90日分しかもらえないの。

良男 どのくらいの金額がもらえるかも気になるな。

幸子 金額について大まかにいえば、退職する前の6カ月分の賞与などを除く賃金の合計を180で割り、年齢や退職する前の賃金に応じて約45~80%の給付率をかけて「基本手当日額」を算出するの。これが何日分もらえるかだけど、例えば30歳以上35歳未満で加入期間が1年以上5年未満の人が会社都合で退職すると120日、同じく35歳以上45歳未満なら150日になるわ。以前はともに90日だったけど、4月からそれぞれ30日、60日増えたの。雇用情勢が改善する中、これらの層の給付日数内での再就職率が依然として低いことを受けた措置よ。

良男 自己都合だと、給付日数が少ないと聞いたけど。

幸子 自己都合の場合は、例えば加入期間が10年以上20年未満ならば120日、20年以上は150日と年齢に関係なく決まっているわ。会社都合であれば、例えば30歳以上35歳未満なら、それぞれ210日、240日もらえるの。

 もし基本手当を受け取っている途中で再就職したら、残りはもらえないのかしら?

幸子 基本手当を受給している途中で再就職しても、給付日数の残りが3分の1以上あるなどの条件を備えれば、残りの日数に一定の率をかけた「再就職手当」をもらえるの。

 ところで、夫の転勤で退職するのは自己都合になるのかしら? もしそうなら、3カ月の給付制限があるのよね。

幸子 いいえ、自己都合にはならないわ。配偶者の転勤に同行するために退職するのは、正当な理由にあたるとして「特定理由離職者」という扱いになるの。これに該当すると、退職前の1年間に通算して6カ月以上の雇用保険の加入期間があればよく、自己都合退職に比べ、給付制限がなくなるといった優遇措置を受けられるわ。そのほかにも、会社に配慮してもらいながら就業していた病気の人がそれでも辞めざるを得なくなったり、妊娠や出産、育児などで退職して基本手当の受給期間を延長したりした場合も当てはまるわね。親を介護しなければならなくなるなど家庭の事情が急変した人も該当するわ。

良男 雇用保険の制度自体は変わってきているのかな。

幸子 主な変更点をあげると、今年1月から65歳以上の人も雇用保険に入れるようになったわ。それまでは65歳以前から同じ会社に勤めていることが条件になっていたけど、別の会社に再就職した場合でも加入できるようになったの。65歳以上でも働いて一定期間、雇用保険に加入し、退職しても再就職する意思があるならば、高年齢求職者給付金がもらえるわ。加入期間が1年以上の場合は基本手当日額の50日分、1年未満の場合は同30日分が一時金として支給されるの。元気なうちは働きたいと思う高齢者は多いしね。

 ほかに変わった点は?

幸子 4月からは雇用保険の保険料率が0.8%から0.6%に下がったわ。有効求人倍率の上昇など雇用情勢の改善が続き、雇用保険の財政が好転しているからよ。8月からは基本手当の日額が上限額、下限額ともに引き上げられるわ。最低賃金が全国的に引き上げられていて、基本手当日額の下限額が最低賃金を下回るケースがあるからなの。こうして支援を手厚くすることで労働力の流動性を高め、非正規や長期失業者を減らす狙いがあるといえそうね。

■離職理由により制限期間
社会保険労務士 中村恭章さん
ハローワークで求職を申し込む際は会社からもらった離職票が必要です。そこに記載された離職理由によって自己都合か会社都合かを判定するからです。離職理由が自己都合になっていても、「退職勧奨を受けた」など実際と食い違うときは正直に話してみましょう。ハローワークが会社に事情を聞くなどして、退職勧奨と判断されれば「特定受給資格者」、つまり会社都合になります。基本手当の給付制限期間はなくなり、給付日数も増えます。
このほか、パワーハラスメントなどの事情があれば特定受給資格者とされます。最近は特定受給や特定理由の適用範囲が広がり、離職の経緯や背景までが判断材料になっています。会社の担当者が理解していないことも多く、退職前にハローワークの窓口やホームページで確認したほうがいいでしょう。
(聞き手は川鍋直彦)

[日本経済新聞夕刊2017年7月26日付]

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