2017/7/30

ビール7人夏物語

母校は東京大学文学部だが、農学部の森林経営学や応用キノコ論、医学部の講義にも顔を出した。面白そうなことは何でも聞いてみたいし、やってみたい。それが桜子だ。

東大からキリン 次々挑戦

幸い06年4月に入社したキリンビールは好きなことは何でもやらせてくれる。とくに入社2年目、マーケティング部に配属となり、「何かいいかも」と思った商品はどんどん挑戦させてくれた。ホップを発酵の段階でも漬け込む「ディップホップ」製法による「グランドキリン」シリーズのほか、氷を入れて飲む「アイスプラスビール」など。これまで思いついた新商品案はゆうに30を超える。

代官山の店でもこの夏、新しい挑戦をする。名付けて「代官山リゾート・2017」プロジェクト。屋外のテラスにハンモックをつるし、風に揺られながらクラフトビールを楽しむ。上面発酵させたハッサクや梅、ラズベリーなど香り豊かなエールビールを用意し「フルーツまつり」だってやってみよう。

未完のまま、どんどん進化

「サグラダ・ファミリア(聖家族)教会のようなもの」――。桜子はスプリングバレーブルワリーをそう表現する。アントニオ・ガウディが設計したスペイン・カタロニアの聖堂で、着工後百年余り建築が続けられているがいまだ未完のまま。スプリングバレーもまた形を変えながらどんどん進化し、新しい姿を見せ続けていく、そんな場所であってほしいといった意味だ。

ビールはもっと自由でいい。多様性豊かで面白いはず。そう思う半面、「変わらなければ消費者からいずれ見放される」との危機感がある。1994年をピークに需要が落ち込み続けているのはその証拠だ。

責任はビールメーカー側にある。ビールは嗜好品で人の数だけビールの種類があってもおかしくない。なのにビールメーカーは大がかりな装置を作り、同じピルスナータイプのビールばかり量産してきた。つくればつくるほどビールメーカーの利益はあがった。

ビールそのものが貴重なお酒だった時代ならそれでもいい。実際、高度成長期はそうだった。「銀座の高級バーでしか飲めない貴重なお酒」といわれ、ビールというだけで珍重された。しかし、冷蔵庫の普及により家庭で飲めるようになった。キリンビールはその恩恵をもっとも受けたメーカーだ。

嗜好の多様化に対応

キリンビールは変われるか?

しかし、今は違う。ビールは変わらなければならない。嗜好の多様化に対応しなければならない。だから桜子は懸命にニーズのありかを探る。クラフトビールという商品を材料にして様々なボールを消費者に投げてみる。受け取ってもらえるのか、無視されるのか――。必死で目を凝らしているのだ。

スプリングバレー京都店もその挑戦の1つ。ビールは楽しい。バラエティー豊かで自由ですよ。そんなメッセージを京都の人たちに伝えられたらと思う。夏、恒例のホップ畑の飲み会は、「今年は京都でできたら」と考えている。

=敬称略

(前野雅弥)

「夏を制するものは1年を制す」。ビール業界では長くこういわれてきた。お中元、お盆、夏祭り……。消費量は通常期の1.2~1.3倍に跳ね上がり、年間最大の需要期に勝利を収めようとアサヒ、キリンビール、サントリービール、サッポロビールの4社が総力戦を繰り広げる。その最前線で戦うビール営業のプロたち。それぞれの思いを秘めて戦う7人の男と女の暑い夏を紹介する。

ビール「営業王」 社長たちの戦い 4人の奇しき軌跡

著者 : 前野 雅弥
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)