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五輪スポンサーのアシックス 「暗黒の20年」に決別 尾山基会長兼社長「ブランドの部活イメージを刷新」

2017/8/9 日経MJ

「高校を卒業してきつい部活から自由になれたのに、なんでまた……と思われている」とアシックスの尾山基会長兼社長は分析する

 スポーツ用品メーカー国内最大手のアシックスは機能性などを強みに、中学、高校の体育や部活ではトップシェアを誇る。ただ、一歩、街中に出ると、シューズやウエアでは米ナイキなどに後れを取っている。2020年の東京五輪のオフィシャルスポンサーになった同社の尾山基会長兼社長は「五輪を契機にして、ブランドイメージを刷新する」と意気込む。(聞き手は企業報道部次長 永井伸雄)

 ――欧米に比べると日本ではブランド力がいまひとつのようです。理由をどうみていますか。

 「中学、高校の部活まではアシックスブランドは強いんです。高校のバスケットボールシューズの占有率は55%超です。ただ、大学に行くとナイキや独アディダス。体育や部活のきつさなどから逃れて、やっと自由になったのになんで(アシックス)となってしまった。気づくのも遅かった」

 「1990年代はスニーカーブーム。ファッションとしてのスポーツウエアの流れに乗ればよかったのに、学校スポーツ、競技スポーツに集中してしまった。もともと機能性などで強かったこともあり、世の中の流れに背を向け、暗黒の20年でした」

「ストリート系やカジュアルの品ぞろえを拡充する」と語る尾山氏
新たなブランドイメージを発信するため直営店も強化する(東京・銀座)

 ――事業環境の違いも大きかったですか。

 「(日本の百貨店のように)返品OKのような商習慣があると、なかなか厳しい。靴は返品されてもまた店頭に並べられますが、アパレルはアウトレットか焼却処分。粗利益率で10ポイント以上下がります。メーカーと小売り、消費者の間に問屋が入る流通構造も日本独特。当社の人間も、小売りや問屋ばかり見ていました。今のお客さん向けなのに3年間、商品を変えていない例もありました」

 「過去と決別するため、15年に約350人の希望退職を実施しました。販路も見直しています。全世界の取引店をAからCに分けて、年に1回見直しています。ちょっと格好いい商品を出そうとしたら、日本では既存のスポーツ小売りだけでなく、ネットと直営店に力を入れないと。東京・銀座のように賃料の高い場所に店を出す場合、高級ブランドのように、地域全体で採算を考えて判断するようにしています」

 ――欧州でうまくいっているのはなぜですか。

 「日本は過去の歴史がありますが、海外はまっさらなキャンバスのような状態でした。競技ウエアから、スポーツを楽しむ人向け、街着まで、ブランドイメージが浸透しやすい。ラグビー用品ではオーストラリアや南アフリカなどのトップチームに採用されていますが、現地ではラグビーだけでなく、サッカー選手にも愛用者が広がっています」

 ――東京五輪のスポンサーとなって、どうビジネスに生かしますか。

 「日本では、学校体育ですり込まれた負のイメージを変えていきたい。国内売上高は実質800億~900億円程度ですが、ナイキ、アディダスは全盛期に日本だけで1千億円を超えました。レプリカとかを出すので瞬間的には大台には届くでしょうが、安定的に大台を維持したい。スポンサー料はマーケティング投資とみています。社内からは『やらないと後悔する』との声もありました」

 「五輪では、スポーツクライミングや(バスケの)スリー・オン・スリーなど新たなスポーツに注目しています。クライミングはかつて製品を作っていました。市場は小さくても世界で活躍する日本人選手もいるし、ブランドイメージを刷新する好機とみています」

 ――表彰台に上がるトップアスリートに使ってもらうと、利用者が広がりますね。

 「ストリートとかカジュアル向けの市場は、スポーツをやっている人向けの2倍以上。ナイキは80年代から、アディダス、プーマも取り組んでおり、五輪スポンサーになったのを機にさらに力を入れていきます」

 ――スポーツ衣料には最近、アパレル企業が多く参入しています。

 「我々はブランドをいくつも展開しません。自信があるのは競技用スポーツで培った機能やノウハウ。腕を上にあげてもシャツの裾が出ないとか、吸湿性や保温性なども素材を自前でつくってきたという強みがあります。もちろん、こうした機能性もデザインが伴ってこそなので、デザイナーと連携していきます。ただ、原点はスポーツ用品。相手は米GAPとかではありません」

 「スポーツバッグなども有望視しています。かつては80億円くらいありましたが直近は10億円を切る程度。伸ばす余地は大きいです。ただ、売り上げを取るために、余計なものは作りません」

 ――五輪を世界市場開拓にどう生かしますか。

 「五輪は世界最大のスポーツイベントですから経済効果はサッカーのワールドカップ(W杯)以上です。アジア、なかでも中国での市場開拓に弾みをつけたい」

 「16年のリオ大会で盛り上がったパラリンピックにも期待しています。これまでの知見を生かして、今春から品ぞろえを増やしましたし、20年に向けてはさらに力を入れていこうと思います。パラリンピックを通じて、勇気づけられ、より多くの人たちがスポーツに積極的に取り組むようになるとみています」

尾山基
 1974年大阪市大商卒業後、日商岩井入社。ドイツ留学を経て82年にアシックスに入社。2004年取締役、08年社長、17年から会長兼任。世界スポーツ用品工業連盟副会長や日本スポーツ産業学会会長も務める。石川県生まれ、66歳。

[日経MJ2017年7月24日付]

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