『ツイン・ピークス』主演が語る リンチ監督の新境地
1990年代に一大ブームを起こした海外ドラマ『ツイン・ピークス』が復活。前作の25年後を描き、大きな反響を呼んでいる。来日した主演のカイル・マクラクランに、新シーズンの見どころを聞いた。
90~91年に全米放送された『ツイン・ピークス』は、町の人気者で「学園の女王」である女子高生ローラ・パーマーの殺人事件の真相を、FBI特別捜査官デイル・クーパーが捜査していくうちに、町の人々の複雑な人間模様や超常現象も交えた映像世界が展開するミステリーだ。当時は映画界の大物監督がテレビに参入することが珍しかった時代に、『ブルーベルベット』『マルホランド・ドライブ』などでカルトな人気を誇る映像作家デヴィッド・リンチが手がけていることでも話題となった。
その約25年ぶりの新作『ツイン・ピークス The Return』は全18話で、2017年5月から米ケーブル局ショウタイムで放送中。日本でも、この7月から放送が始まった。
主人公のクーパー捜査官を演じるカイル・マクラクランは、新シーズンと前作の違いについて、まずこう語る。「アンジェロ・バダラメンティの、あのテーマ曲を聞けば『ツイン・ピークス』の世界が一気に頭の中によみがえる人も多いでしょう。でも、リンチとしては同じことを繰り返すこと、ノスタルジーは避けたかった。まったく新しい作品であることを強く意識した作りで、よりダークになっています」
『ツイン・ピークス The Return』は、基本的に前作と映画版『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』を踏まえた続編のスタイルを取っている。前シーズンの登場人物の多くが再登場し、最終話で悪の化身ボブに憑依(ひょうい)されたかのような、衝撃的なシーンで幕切れとなったクーパーは、その直後に失踪したという設定だ。
町の住人やクーパーの空白の25年に、何があったのか? 一方で、物語の舞台はツイン・ピークスという町のほかにニューヨークやラスベガスなど複数にまたがり、新たに残忍な殺人事件も起こる。リンチ作品でおなじみのナオミ・ワッツ、ローラ・ダーンのほか新キャストも多数出演する。つまり新章は続編であると同時に、まったく新しい『ツイン・ピークス』の始まりでもある。
前作よりも難解度がアップ
前作でリンチの監督作は数話だったが、今回はリンチが全話を監督しているのが最も重要な点だろう。前作が地上波での放送だったのに対して、今回は有料ケーブル局なので表現の規制が少なく、リンチは独創的な持ち味を遺憾なく発揮できる。
作り方も、全18話分の撮影を終えてから編集に取りかかった。「18時間の映画を撮っているようなもの」とマクラクランが語るように、映画のクオリティーでありながら、2時間で語ることのできない壮大なリンチ・ワールドが展開する。
もっとも、前作にも増して難解度も上がっている。幻覚なのか異次元なのか、様々な要素が混在した映像世界は、視聴者の理解力を試すかのようだ。「視聴者がストーリーについていくためには、前シーズン以上に頑張ってリンチの世界に飛び込んでいかなければならないでしょう」とマクラクラン。「初めて見て楽しむことも可能ですが、シーズン1の第1話とシーズン2の最終話、映画『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』を見ておくと、より理解しやすいのではないでしょうか」とのアドバイスも。
現場ではたびたび脚本が変更され、最終的に編集でどのような仕上がりになっているのかはマクラクラン自身にもわからないとのこと。最初の2話は放送前に特別上映された際に見たが、3話以降は視聴者と同じく放送時に初めて目にしており、「自分が登場していないシーンでは驚きもあるし、発見もある」と言う。「新シーズンはクーパーにとっても、よりダークな旅になっている。僕は複数のキャラクターを演じているけれど、本作は『クーパーが悪を乗り越えるために頑張っている物語』であると知った上で見る必要があるでしょう」
ちなみに、自身の映画デビュー作『デューン/砂の惑星』(84年)以来、リンチとは長年の付き合いであるマクラクラン自身も、リンチの頭の中にあるビジョンを理解することは不可能で、様々な記事を読んで参考にしながら見ているとか。
前作以上に毎エピソードに驚きと謎があり、次回へと引っ張られる中毒性は倍増。同時に、新キャストのナオミ・ワッツとマクラクランの共演シーンなどには奇妙なユーモアも漂う。懐かしの『ツイン・ピークス』らしさに、往年のファンはニヤリとさせられるだろう。マクラクランはワッツとの共演について、「明るくてハキハキとした彼女とはジョークを言いあったりして、現場はとても楽しい雰囲気でした」と撮影時を振り返る。
最後に、なぜ人々はこれほどまでに『ツイン・ピークス』の摩訶不思議(まかふしぎ)な世界に引きつけられるのか、との質問には、次のように答えてくれた。
「やはりリンチというブランド力ですね。彼のビジュアルやシュールな世界観は、人を無条件に引き込む力がありますし、見る者にはチャレンジであると同時に混乱させられます。人間には、未知のものに対する興味という本能があり、『ツイン・ピークス』はそこを存分に刺激するのでしょう。僕は交流サイト(SNS)で、オンエア後のファンの感想も見ていますが、皆さん非常に気に入ってくれています。様々な解釈や意見を交わしながら作品を楽しんでいる、視聴者の意欲的な姿勢を素晴らしいと思っています」
(ライター 今祥枝)
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