島唄を歌うシーンがあるため、奄美島唄伝承の第一人者の唄者(うたしゃ)、朝崎郁恵さんから直接手ほどきを受けた。また「島を象徴するような主人公にしたい」と、衣装や髪型にもこだわっている。
島を伝えるためにこだわった衣装、その衣装を脱ぐとき
「奄美というと、南の島特有の湿気がムンムンしているイメージがあるだろうし、ミホさんには『死の棘』での愛に狂った女性像もある。そこに戦争の話も絡むので、一見、重たい、つらい映画だと思われる気がするんです。
そればかりの話ではないし、どちらかというとファンタジーでおとぎ話のような島だと私は感じているので、衣装はあえて透ける素材の、柔らかいものを多く選んでいます。彼女が新しい世界に憧れていて、おしゃれが好きだということを表すため、戦時中だけど、もんぺにオレンジや赤を入れたり桃色の着物を身につけたりもしました。
ポスター写真にも写っている赤と緑のネックレスは、衣装の伊藤佐智子さんにお願いして作ってもらったんです。赤は珊瑚で、緑は私が祖母からもらったネックレスチャーム。撮影の始まる1カ月ほど前からそれを首にかけて生活していました」
『海辺の生と死』では、衣装を脱いで頭から水をかぶる、禊ぎ(みそぎ)を行うシーンがあり、見る者を驚かせる。
「私もびっくりしました。そんな予定じゃなかったので(笑)。
この映画にも出てくる『古事記』に、『ひとつずつ身につけているものをおとし、両目と鼻と口に水を付け、身を清める』というような禊ぎの儀式があるんです。現場に行ったら、監督がその方法で禊ぎをやりたいと。『ワンピースのままですか?』と聞いたら、『どっちでもいいよ』って。
服を着て禊ぎをしている人って、ヘンじゃないか? と思って『わかりましたー』とあまり何も考えずにあの場面を撮ったんです。だから映画ができあがった時に、『うわっ、やっちまったな』とちょっと思いました(笑)。
神秘的な旧家のお庭で、なぞの壷に水を張って頭からばしゃーんとかぶる。たぶん、本当の禊ぎをやってしまったのではないかと、疑っています」
いつもモノとの相性を考える
役との距離感が面白い。「役には入らない方がいい。(役と自分の)境界線を曖昧にして、あっちもこっちも自由に泳げる状態にしていたい」と話す。モノとの距離感にも、彼女ならではの尺度がある。
「人よりもモノの方が、距離が近い感じが昔からあるんです。例えば? よく、モノに話しかける。話しますよね? 話しません? 『私と今、相性良くないね。ほかの人のところに行く?』とか(笑)。