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カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。9回目はミドル・マネジメントの方法論について、ゴーン氏が答えます。

最も大切なミドル・マネジメント期

ミドル・マネジメント期は人を最も成長させる重要な段階

Q 書籍などでは、よくトップ・マネジメントのリーダーシップ論を見かけます。けれども、ミドル・マネジメントの方法論についてはどうでしょう。
写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

とても良い質問だと思います。ミドル・マネジメントの立場にいる人は、きわめて重要な経験をしながら毎日を過ごすことができるのだと、考えていただきたいと思います。どのようにミドル・マネジメント時代を過ごすかによって、より良いリーダーに成長できるかどうかが決まってきます。それは、自分の部下とも接しつつ、自分の上司とも接しなければならないという、2つの視点を持つことができるからです。

まず、ミドル・マネジメントは部下達のモチベーションを高めなければなりません。時には答えることのできない質問を受けることもあります。しかし、それもまたきわめて得られるものの大きい、やりがいのある仕事です。

一方で、ミドル・マネジメントには上司もいます。上司とは仲が良いのがいちばんと思っている人がほとんどだと思います。けれども、嫌いな上司と接し続けることにも、それなりに得られるものがあります。つまり、嫌いな上司からは学べることが多くあります。部下である自分から見て、上司のコミュニケーションがなっていないと感じれば、コミュニケーションがいかに大切であるかを学ぶことができるわけです。私自身、きちっとコミュニケーションもしなければ、信頼もしてくれないような、そんな嫌いな上司と接しているなかで、フラストレーションを感じつつも、学ぶことができたと思っています。

管理職になる前段階の社員では、責任がそれほど重くもないし、自分の会社についてよくわからないこともたくさんある。一方、上層部の社員も、現場から遠ざかるなどして、現実の感覚と離れてしまうリスクがあります。その中間にいるミドル・マネジメントは、企業のことがよく見えている段階にいるし、現実とも接点を持つことができる。将来のリーダーに育っていくために、ミドル・マネジメントの時期の経験はとても重要なのです。

小さなチームの取り組みでも結果を出した人物こそが優秀と評価される

Q 会社が危機的状況に陥っている場合や、機能不全に陥っている場合、ミドル・マネジメントは何をすべきでしょうか。

ミドル・マネジメントには、できることがたくさんあります。

何より考えていただきたいのは、会社が危機的状況に直面している時は、ミドル・マネジメントの立場にいる人達自身が、自分自身のチームとともに、どうやって品質、コスト、利益の点で会社に貢献できるのか考えてください。もちろん、ミドル・マネジメントとしての従来の職務に上乗せして、という意味ですが。

例えば、小さな取り組みでもよいので、その取り組みを展開してみることです。チームのメンバーといっしょに、コミュニケーションを密にしたり、モチベーションを高めたりしてチームの状態を強化して、成果を出していく。

小さな取り組みをしたところで、どれだけの効果が上がるのかと疑問に思うかもしれません。けれども、「やっても意味がない」などと過小評価しないでください。あなたと同様、会社が危機に直面していることを理解している人もいるはずです。そういう人達は、たいてい上層部にもいます。そのような人は、「この会社を変革するには、こういう人が必要だ」と、あなたの小さな取り組みを認めます。まずはそのための準備をしてください。

私は、「この会社(日産)を変革するには、ミドル・マネジメントのアイデアが必要だ」と考えました。そこで、クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)を組織した時、そのメンバーを主にミドル・マネジメントで構成しました。ミドル・マネジメントはちゃんと現実を分かっているからです。課題解決の方法を、少なくとも一部分は持っているからです。しかも、それは理論や理屈のレベルでなく、現実的なレベルでです。

重要なことですが、進歩を遂げたいと思っているようなチームが編成されると、周囲の皆が目に留めてくれます。日産自動車の場合、CFTを組織することが変革を加速させる唯一の手段でした。でも、大規模なCFTを組織するのがむずかしい企業でも、品質サークルやプログレスチームは編成できると思います。ミドル・マネジメントがそうしたチームに取り組むことは、トップ・マネジメントにも認められると思います。

会社における人物の価値とは、結局のところ「結果を出せたか」で決まるのです。会社においては、1人ひとりが結果を出せる力が違います。ですので、安易にAさんが抜けたから代わりにBさんを置くといったことはできないはずです。結果が大きく違ってきます。

サッカーでは優勝するチームとしないチームがあります。優秀な選手とそうでない選手がいます。リーグ開始前には成績がどうなるかわかりませんが、試合を重ねていくと「このチームはよく勝つ」ということが分かってきます。そして、得点を重ねる選手が現れると「この選手は優秀だ」ということが分かってきます。

優秀なチームは、練習量が多いとか、選手の健康管理がしっかりしているとか、そういったことではありません。勝利を重ねて優勝するから、そのチームは優秀なのです。

優秀とされる選手は、インタビューで弁が立つとか、個性的な容姿をしているとか、そんなことではありません。ゴールを決めるから優秀なのです。結果を出している優秀な選手を交代させるとチーム全体のバランスが崩れてしまうことだってあるわけです。

※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載)

カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座

著者 : 日産財団(監修)、太田正孝・池上重輔(編著)
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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