東京都23区の中古マンション成約価格は2013年以降、上昇傾向でしたが、このところその勢いが薄れてきたといわれています。とはいえこの動向は、あくまで平均値の話。最近の価格トレンドの変化が全体的に起きているのか、あるいは特定の地域で発生しているのか、とても気になるところです。
15~16年以降、価格上昇が鈍る
そこで、13年1月から17年6月までに23区内で中古マンションが成約した事例のデータを活用し、3つの地区に分けて価格推移を調べてみました。3つの地区とは、
・都心地区(千代田、中央、港、渋谷、新宿、豊島、文京)
・東北地区(葛飾、荒川、足立、江戸川、江東、墨田、台東、板橋、北)
・南西地区(大田、目黒、品川、世田谷、杉並、中野、練馬)
です。
以下のグラフにあるように、都心地区と南西地区は15年以降、東北地区は16年以降、価格上昇の勢いが鈍っており、その傾向は多少の違いはあるにせよ、おおむね同じようなトレンドです。これを見る限りでは、昨今の価格トレンドは全体的に発生している変化によるものといえそうです。
次に最寄り駅からの徒歩距離(分)による価格変化を分析しました。駅から近ければ成約単価は高く、遠ければ安くなるというのが一般的です。前述の成約事例データを使い、最寄り駅からの徒歩距離が1分遠くなるごとに成約単価がどのように変化しているかを統計的に分析したところ、以下のようになりました。
最寄り駅から1分遠くなるごとに下がる成約単価(円/平方メートル)

13年以降、駅から1分遠くなるごとに下がる成約単価は、どの地区も年々大きくなる傾向にあります。このことは駅からの距離によって中古マンションの価格格差が年々拡大していることを意味します。ここで少し分かりやすくするために分析結果を利用し、駅からの徒歩距離5分と12分の中古マンションについて、成約単価の推移をグラフにしました。
「駅歩」で価格上昇の度合いに差
先ほどの地区別グラフとは違い、最寄り駅からの徒歩距離によって、価格上昇の度合いに差があることがわかります。そしていずれの地区も、最寄り駅から徒歩5分と12分とでは成約単価の差が年々広がっていることも明らかです。以下の表にあるように、13年の単価の差に対して東北地区は1.4倍程度、都心、南西地区にいたっては2倍程度にまで拡大していました。

もう一つ重要なことは、東北、南西地区の最寄り駅から徒歩12分の中古マンションは16年以降、価格動向が横ばい傾向となっていることです。つまり価格上昇のトレンドに勢いがなくなってきているのは、駅から遠い場所にある中古マンションの価格上昇にブレーキがかかっていることが主な要因だといえそうです。
こうしてみると、23区内であればどこも同じような価格トレンドだということはなさそうです。最寄り駅からの距離はマンションの利便性を示す重要な指標の一つで、これに対する「価格感応度」がこれまで以上に強くなってきているといえるでしょう。
上昇、横ばい、下落の色分け鮮明に
筆者は今後、中古マンションの価格が全体的に上昇するとは思っていません。これまで価格を上昇させてきた主な理由は大幅な金融緩和による低金利政策によるところが大きいものの、さらなる金利引き下げは見込めないことに加え、中古マンションの在庫が急減する傾向が依然として見られないからです。国内外の政治経済情勢が安定的であることを条件に、年内の23区の中古マンション価格は全体的には横ばい傾向で移行すると思われますが、その内実は「上昇」「横ばい」「下落」という色分けがより濃くなりそうです。
駅からの距離以外にも、立地のブランドやマンションそのもののブランド、地盤の特性や災害リスク、マンションの管理状況なども価格差を広げる要因になると思いますが、色分けを決める大きな要素の一つは駅からの距離といえそうです。
