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「女性」が彩る東京オリパラ 4人のアスリートの軌跡 ソフトボール/パラ陸上/パラバドミントン/車いすラグビー

2017/7/24 日本経済新聞 朝刊

東京五輪・パラリンピックに参加する女性アスリートは過去最高まで増える(写真はパラ陸上走り幅跳びの前川楓さん) 

半世紀以上のときを経て戻ってくる2度目の東京五輪・パラリンピックは、新種目や追加競技に加え、過去最高まで増える女性アスリートに彩られた大会になりそうだ。3年後の夢舞台を目指し、ベテランも若手も一歩ずつ進んでいる。

ソフトボール・上野由岐子さん

■12年ぶりの五輪、帰ってきたエース

「一日一日、楽しくソフトボールに向き合う」。復活の舞台を3年後に控え、日本代表の大エース上野由岐子さん(ビックカメラ高崎)は穏やかな心模様で日々グラウンドに立っている。眼光鋭く闘志をたぎらせ、一人マウンドで戦っていたかつての姿からは少し柔和になったようにも見える。

22日で35歳になった。「以前は自分が金メダルを取るために頑張っていた。今だから、誰かのために戦いたいと思える」と話す

22日で35歳になった。20代の頃は朝から晩まで練習したが、今は昼すぎに切り上げる。全盛期に比べると打ち込まれることも増えた。先月25日の日米対抗では本塁打を浴びるなど2失点。満足できる出来ではなかった。

後輩の選手たちに今も技術では勝っているという自負はあるが、一方で「アグレッシブさでは勝てない。若いっていいな」と感じる。思い出すのは同じように強気だった若き日の自分だろうか。

9年前の夏、ソフトボール日本代表は「最後の五輪」で悲願の金メダルを獲得し、日本列島を熱狂の渦に巻き込んだ。2日間で決勝を含め3試合を完投した「上野の413球」は日本五輪史に刻まれる伝説となり、この年の流行語大賞の候補にもなった。

達成感が大きかった分、心のともしびは時間がたつにつれて小さくなった。「世界一になり、それ以上の目標が見つからなかった」。北京を最後に五輪競技から外れた途端、世間やメディアの注目もがくんと落ちた。強化費やスポンサーも激減し、日本代表の活動も縮小。比例するように「やめたい」との思いが心をよぎるようになった。

折れそうな心を支えてくれたのは、当時所属チームの監督だった宇津木麗華・現日本代表ヘッドコーチだ。「『やめないで続けることに意味がある。ソフトボールに恩返しする気持ちでやってごらん』と言われて。それなら、もう少し頑張ってみようかなと」

ただ勝利のためだけに投げ続けてきた豪腕は、チームメートにも支えられながら競技への向き合い方を変えた。楽しんでプレーすることを意識し、後輩を指導する時間も増えた。所属チームの存続危機や故障など、壁にぶつかるたびに「引退」の2文字が脳裏をよぎったが、恩師の言葉を支えに現役を続けてきた。

だからこそ、昨年8月に追加競技として五輪復帰が決まった時、単純に喜ぶ気持ちにはなれなかった。「五輪に戻ったのはうれしいけれど、代表の肩書は気軽に背負えるものじゃない」。北京に向けて、重圧を一身に背負って投げ続けた辛苦の記憶がよみがえった。

それでも代表復帰を引き受けたのは、恩師が監督に就いたからだ。「麗華さんにエースと指名されたからには、覚悟を決めなきゃいけない」。腹をくくり、再び目標に向かって歩み始めた。

現在の日本代表に五輪経験者はほとんどいない。「今のチームに金メダルを取る強さはない。もっと高いレベルを目指さないと」。頂点への旅路の険しさを知っているからこそ、上野さんはあえて厳しい言葉も口にする。

自身は「監督に信頼される選手であれば」と個人的な欲はない。「以前は自分が金メダルを取るために頑張っていた。今だから、誰かのために戦いたいと思える」。誰よりもソフトボールを楽しみ、自然体で。心持ちは変わろうとも、上野は3年後も頼れるエースであり続ける。

(堀部遥)

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