日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/7/29
ティラノサウルスの化石。アリゲーターの皮膚を思わせる小さなうろこ模様が見える。(PHOTOGRAPH BY AMANDA KELLEY)

中国にいた羽毛ティラノ

しかし、体が大きい方が羽毛は少ないという仮説にも1つの問題がある。現在の中国に生息していた大型恐竜ユウティラヌスだ。その名前は「羽毛を持つ暴君」を意味する。

この恐竜もティラノサウルスの仲間だが、体の大部分が長さ20センチほどの羽毛状の繊維に覆われていたことを、複数の化石が示唆している。また、ユウティラヌスは後の時代に登場したTレックスに比べれば小さいが、うろこを持つアルバートサウルスやゴルゴサウルスとは同じくらいのサイズだ。つまり、体の大きさだけでは、羽毛が失われた理由を説明できないということだ。

パーソンズ氏も、羽毛に覆われたティラノサウルスと羽毛の少ないティラノサウルスが存在した理由ははっきりしていないと述べている。しかも、生息地の平均気温は同等だったと推測されている。ただし、論文には次のような仮説が提示されている。ユウティラヌスは森に暮らしていたため、木陰で体を冷やすことができた、という説である。

ジャワサイやアジアゾウなど、森に暮らす現代の大型哺乳類を想像してみるといい。たいていサバンナに暮らす近縁種よりは体毛が多いはずだ。

研究の対象となった大型ティラノサウルス、アルバートサウルスの想像図。(ILLUSTRATION BY JIM KUETHER)

「地獄からやって来た巨大な鳥」

もちろん、これでTレックスの羽毛問題が解決したと誰もが思っているわけではない。

英エディンバラ大学でティラノサウルスの研究をするスティーブン・ブラサット氏は「特に巨大な種であれば、一部のティラノサウルスの羽毛が減ったり、完全に失われたりしたとしても、決して意外ではありません」と話す。ただし、Tレックスなどの大型ティラノサウルスに羽毛が全くなかったと結論付けるのは時期尚早だとブラサット氏は言う。

「非常に特殊な環境下でなければ、羽毛のような軟組織が保存されることはありません。われわれが知る限り、今回の研究で使用された大型ティラノサウルスの化石はそのような環境になかったはずです」(参考記事:「世界初 琥珀の中に羽毛恐竜の尻尾」)

ブラサット氏は1つの例として、もしゾウの皮膚の模様が化石に残されていたら、ゾウは体毛がなかったと思い込んでしまうかもしれないと指摘する。ゾウの皮膚は分厚く、しわが寄っているためだ。しかし、周知の通り、ゾウにも体毛はある。そして、子ゾウは大人のゾウよりさらに体毛が多い。

「巨大な体にふわふわの羽毛が生えたティラノサウルスのイメージをまだ捨てるべきではないと思います」とブラサット氏は主張する。

「私の頭の中にはやはり、地獄からやって来た巨大な鳥というイメージがあります」

(文 Jason Bittel、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年6月9日付]