先進国、IT浸透で賃上げ鈍く 緩和長引く(加藤出)東短リサーチ社長チーフエコノミスト

16年までの2年間に英国で増加した雇用機会の約3分の1は、ギグ・エコノミーだという。それらで働く人々は、スマートフォン(スマホ)を見ながら自分がやりたいと思う仕事を単発で適宜選んでいる。そこで働く人々の所得の伸び率はあまり高くない(ウーバーなどにおいては、労働者はバラバラに働いており、団結して企業に対して賃上げを要求することはあまりない)。ギグ・エコノミーで働いている人々の多くは本当は正規雇用を望んでおり、そういった人々を雇用者数から除くと、英国の失業率は11.5%に跳ね上がるのだ。

テクノロジーの進展が、様々な業種の労働市場への「参入障壁」を大幅に下げている点も賃金の伸びを抑えている。ロンドンのタクシー業界の場合、運転手になるためには従来は3~5年猛勉強して、細かい道路の名前を全て覚えて難関試験に合格しなければならなかった。そういった参入障壁により運転手の賃金は守られていた。しかし、今はナビゲーション・システムがあるので、地理を知らない素人でもウーバーの運転手にはすぐなれてしまう。

緩和の長期化で資産バブルが顕在化

シェアリングサービスの拡大とともに、賃金が上がらないという問題は先進国共通になりつつある。賃金の伸びが低い中で、中銀がインフレ目標(多くの国で2%前後が採用されている)の達成をめざし続けると、超金融緩和策が長期化してしまう。その副作用として、資産バブルが世界的に顕在化している。グラフは、BISの集計による過去20年の住宅価格の推移である。住宅価格が高騰しているスウェーデンやカナダでは、緩和策の「やり過ぎ」が国内でかなり問題視されている。米国の住宅価格はサブプライム・バブル期のピーク時に並びつつある。このため、多くの中央銀行はインフレ目標の達成と資産バブルのけん制のバランスをとる必要性を感じ始めている。

他の先進国に比べても賃上げのペースが緩やかな日本は、インフレ目標達成が現時点で最も困難だ。それゆえ、日銀は他の中央銀行とは異なり出口をいまだに語ろうとしない。超緩和策の長期化は前述のように一般的には資産バブルを誘発しやすい。しかし、日本では人口減少が先行き顕著に進んでいくため、これほどの大規模な緩和策を長く続けていても、(大都市圏は別だが)住宅バブルは発生しにくい(グラフでも日本は異次元の低い動きを示している)。

日銀もバランスを重視する必要

日銀はすさまじい勢いで国債を購入し続けている。それによって長期金利を不自然に低位に誘導する「国債バブル」はすでに発生している。その弊害は「財政規律の緩み」という形で、将来深刻な問題を起こす恐れがある。

先週、日銀はインフレ目標達成の見通しを19年度へ先送りした。日銀はインフレ率が2%を安定的にオーバーシュートする(行き過ぎる)まで、マネタリーベース(資金供給量)を増加させると宣言している。つまり、日銀の資産購入策が終了するのは早くても20年度となる。日銀はインフレ目標達成だけを目指すべきではなく、バランスを重視することが必要だろう。

加藤出
1965年生まれ。88年横浜国立大学経済学部卒、同年4月東京短資入社。短期市場のブローカーとエコノミストを兼務後、2002年2月に東短リサーチ取締役、13年2月より現職。マーケットの現場の視点から日銀、FRB、ECB、中国人民銀行などの金融政策を分析する。著書に「日銀、『出口』なし!」(朝日新聞出版、14年)など。
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