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『宝くじで1億円当たった人の末路』 読後感は爽やか

2017/7/20

 最近あちこちで書名を見かけるので気になって読んでみた。『宝くじで1億円当たった人の末路』。末路と言われるとどことなく近よってはいけない不幸の匂いが感じられ、興味をそそられる。もともとは日経ビジネスオンラインで、日経ビジネス編集部のデスクが交代で担当していたコラムの「キーパーソンに聞く」がベースになっているようだが、現在の方が目を引く。なかなかうまいタイトルである。

■「選択」で人生がどう変わるか

 さて本書は宝くじの話で始まってはいるものの、宝くじを当てて結局不幸になった人が登場する本ではない。「世間からは変わり者といわれる○○という選択をした場合、最終的にその人の人生はどうなっていくのか」を、著者である鈴木信行デスクが専門家や研究者に取材して推測した本である。その選択は宝くじ当せんのような特殊なものだけでなく、「もしも子供を作らなかったら」「都会での会社勤めに疲れ、海辺の田舎町に移住したら」といった多くの人が普通に選び得る選択も多い。

 内容はバラエティーに富んでいて、マネー関連だけでも冒頭の宝くじの他に、「事故物件を借りちゃった人の末路」「教育費貧乏な家庭の末路」「賃貸派の末路」などがある。ある条件のもとに将来を予測して、人生の先行きを知りたい、という点では当マネー研究所で掲載している「人生まるごとシミュレーション」にも通じる(『妻が仕事をやめてきた 年収500万円世帯の先行きは?』などの記事もこの機会に読んでみてほしい)。

 他にも「大学を卒業しても就職せずバックパッカーとして放浪していた人の末路」「キラキラネームを付けられてしまった人の末路」「友達を1人も作らなかった人の末路」「禁煙にしなかった飲食店の末路」など、結果が気になる23の末路が読める。著者はビジネスパーソンが日常生活の中で抱くちょっとした疑問や夢、もやもやした気持ちなどを放置せず、専門家とタッグを組んで将来像を予想した。その「人とはちょっと違った将来の姿」を「末路」と称しているわけだ。

■宝くじからルンバの話へ

 宝くじの章でいえば、登場する専門家は家計簿アプリとしておなじみの「マネーフォワード」の瀧俊雄取締役。年末ジャンボ宝くじで1等が当たる確率(昨今の賞金は1億円どころか7億円!)は1000万分の1以下だというが、当たったら当たったで困ったことになる、と瀧氏は言う。家族・親族内トラブルを筆頭に、隠そうとしても隠し切れない浪費の気配、ぜいたくに慣れた結果のまさかの貧困化、人生の目的喪失など、まさに末路としか呼びようのない未来を次々と予想してくれるのだ。実際、2005年にはサマージャンボの1等2億円に当せんしたことが原因の殺人事件も起こっているという。

 つまり、そもそも当たる確率は低いし、当たっても困ったことになる。ならば宝くじは買わない方が賢明ですね……となり、そこで終わる本も多い中、この本が面白いのは「宝くじを買う度胸があるならルンバを作れ!」という結論まで進んでいる点だ。どういうことか。

 ちょっと説明が長くなるが、編集部の取材では日本の家電メーカーはロボット掃除機くらい簡単に作れる技術力はあったのに、バブル崩壊以降、一気に進んだ「リスクを過大評価しすぎて恐れる傾向」のせいで、一向に開発しようとしなかったのだそうだ。そのリスクとは「ロボット掃除機が仏壇のろうそくを倒して火災になるリスク」(大手家電メーカー)だという。確率ゼロではないだろうが、購買層やライフスタイルから考えるとそこまで気にしなくていいリスクのように思える。

 すなわち、同じ人間が宝くじについては確率1000万分の1以下なのに「いつか当たる」と買い続け(=リターンを過大評価)、ロボット掃除機についてはちょっと考えにくいような状況を想定して、海外勢に市場を乗っ取られてしまっている(=リスクを過大評価)。ならば、めったに起こらない幸運を待つのも、めったに起こらない不幸におびえるのも両方やめてしまえば、人生やビジネスの可能性が広がるのではないか……という結論なのだ。読者は宝くじという分かりやすい入り口から入りながら、最終的には少し遠い地点まで運ばれていき、そこから日本のビジネスのあり方まで考えさせられる。

 これ以外の章にも「キラキラネームを付ける親は、実は中流以上で社会的地位もある真面目な人が多い」「働き方改革の中でも日本企業の残業がバブル崩壊直後と比べてほとんど減っていないのは、日本では残業しないと出世しない仕組みになっているからだ」など、あっと驚くような気付きがある。

■人に合わせて生きる必要はない

 そして全体の読後感は意外にも明るい。「そういう変わった選択をしても、考え方次第で何とかなる」という希望の持てる展開が多いからだ(事故物件に住む章など、常識では説明できない何かがあるのでやめた方がいい、という例もまれにあるが……)。もっといえば、この本の隠れたテーマは「今の日本を息苦しくしている同調圧力」と「そこから抜け出すための発想転換」なのだ。

 周囲の人と何とか同じであろうとすると無理が生じる。例えばお金がないのに富裕層のような教育を与えようとして教育費貧乏になるとか、「賃貸だと老後に住む所がなくなる」という風潮に負けて、本来無理な住宅ローンを組んでしまう、といったパターンだ。だがそもそも、その世間への同調をやめてしまえば、生活も気持ちも楽になる。他人の標準に合わせて生きる必要はない。23のやや極端な思考実験は、それを教えてくれている。

 この本の編集に携わった日経ビジネスの日野なおみ記者にも、読者からの反響を聞いてみた。「各章の結論については、読者の方はいずれも強く共感してくださっているようです。女性にも多く読まれています。『末路』というとおどろおどろしい結末が待ち受けているような印象ですが、実際にはそんなことはなく、むしろ『読むと心が軽くなった』『気持ちがすーっと楽になった』という声が多数寄せられています」。お金計画からキラキラネームまで、人生に悩みと迷いはつきものだが、そんなときにこの本を手に取ってみるといい。「価値観の軟らかな転換」ができ、ストレスが少しだけ軽減するだろう。

(マネー研究所編集長 大口克人)

宝くじで1億円当たった人の末路

著者 : 鈴木 信行
出版 : 日経BP社
価格 : 1,512円 (税込み)


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