お手伝いさんはフィリピン人 高度外国人材呼ぶ狙いも
お手伝いさんは外国人――。そんな家庭が日本で出始めました。日本は外国人労働者の受け入れに慎重な国ですが、東京都、大阪市、神奈川県など政府が「特区」と決めた地域では料理や洗濯などの家事を外国人にしてもらえるようになったのです。フィリピンから来た女性が働き始めています。
政府はこれで「女性の活躍を後押しする」と言います。働く女性が増え、共働き家庭は専業主婦家庭の2倍近くになっています。仕事も家事も育児もこなすのではヘトヘトになるので家事を外注できるようにしよう、というのです。
日本人が日本人の家事を助けるサービスもあるのに、なぜ海外からお手伝いさんに来てもらうのでしょうか。一つは人手不足への備え、もう一つは日本に外国人をもっと呼び込むためです。東京都は「金融などの高い知識をもった人に海外から来てもらうにはフィリピン人のように英語ができる家事労働者が必要」と考えています。
世界では外国人のお手伝いさんは珍しくありません。国際労働機関の推計では、世界に約4400万人の女性家事労働者がいます。多くは住み込みで介護なども担います。埼玉県立大学の伊藤善典教授は「イタリアやスペインでは不法就労が多く、低賃金や虐待が問題になっている」と話します。
日本の特区は「日本人と同等以上の給料」を払う決まりなので、「格安で使おう」といったことはできません。人材大手パソナに所属するフィリピン人のバゴ・マリアデルさんは「日本は安全で働くのには魅力的。仕事が終わった後はプライベートな時間が持てるのもうれしい」と話します。実際に同社がフィリピンで募集すると3日間で約3500人から問い合わせがあったそうです。ただ同社のサービスは1回2時間、月2回で1万円です。高所得者以外にも利用が広がるかは未知数です。
より多くの女性が働きやすくするには、むしろ家事の「分担」が重要かもしれません。国立社会保障・人口問題研究所の調査では家事の8割は女性が担っています。「家事は女性が」という考えを改めて、夫がもっと家事を担うことも「女性活躍」には欠かせないでしょう。
伊藤善典埼玉県立大教授「世界の家事労働者、家庭内の介護が中心」
世界では外国人家事労働者の低賃金や虐待が問題になっています。日本ではこうした問題は起きないのでしょうか。この問題に詳しい埼玉県立大学の伊藤善典教授に話を聞きました。
――世界の状況を教えてください。
「家事労働者というと、掃除や料理をしてくれるイメージがあるかもしれません。実際に日本人が海外に駐在したときもこうした家事労働者がいることも多いでしょう。しかし、こうしたイメージは一側面にすぎません。世界の家事労働者の多くは、家庭内の介護が主な仕事です」
――具体的にはどの国で多いですか。
「スペインやイタリア、ギリシャなどの南欧、ドイツ、オーストリア、シンガポール、台湾などの東アジアです。これらの地域は家族主義が強く、親の介護を家族がするのが前提となっていました。1990年代以降、急速に進んだ女性の社会進出と少子高齢化で、家族で介護が担えなくなり、外国人の家事労働者で穴埋めしているのです。家族主義が弱く、公的な介護サービスが充実している北欧では外国人の家事労働者はほとんどいません」
――どのような問題が起きていますか。
「各家庭が直接雇用し、住み込みで、休みもとらずに長時間労働をすることが多いようです。密室のため虐待があってもわかりません。不法就労も多く、社会保障への加入もないまま、低賃金で働いています。例えばイタリアでは、公的な介護サービスが整備されていない分、介護に関する現金給付があります。そのお金を使って、それぞれの家庭が不法就労者を雇うケースが多数見られます」
――日本でも同じような問題が起きると思いますか。
「日本の特区は良い制度設計だと思います。外国人家事労働者が家庭と直接契約するのではなく、仲介する事業者が外国人家事労働者を雇う形になっています。事業者を監督すれば良いので、労働者の人権が守りやすいでしょう。ただ今後、全国展開になると悪質な事業者も出てくるかもしれません。さらに言うと、日本は公的な介護サービスを縮小する一方、女性の就労を促進しようとしています。そうすると家庭内での介護需要が増えます。その時、家事労働者を使って介護をさせようと考える人が出てくるかもしれません。その時にどういう制度設計をするかも重要なポイントになるでしょう」
(福山絵里子)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。