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住宅ローン残高、60歳で700万円が目安 賃貸も一案 ライフイベントとお金(3)

2017/7/23

PIXTA

 午後8時半。筧家のダイニングテーブルで良男と幸子がバウムクーヘンを食べながらくつろいでいると、会社員の恵が息を切らせて帰ってきました。バッグから取り出したのは新築分譲マンションを特集した分厚い雑誌。いろんなページに付箋が貼られています。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 筧良男(かけい・よしお、52=中)  筧恵(かけい・めぐみ、25) 

 良男 そんなに急いで帰ってきて、何かあったのか?

  この雑誌の新築マンション特集を見て。「駅から徒歩7分、1LDKで3400万円」だって。間取りもいいわ。私、ひとり暮らしがしたい!

 良男 まだ早い。考え直せ。

 幸子 まあまあ。恵も自立してもよい年ごろだから。ただ人生は長いから住宅資金をコツコツためることが大切よ。

  私、結婚後もバリバリ働くつもりだから、将来、大都市圏の高級物件を買えると思うの。夫婦共働きなら2倍の住宅ローンを組めるでしょ?

 良男 共働き世帯が増え、夫婦それぞれがローンを組む「ペアローン」が広がっている。みずほ銀行でもここ10年、契約者が増え続けているそうだ。夫婦それぞれがローン残高などに応じて一定の税額控除が受けられるのがメリットだな。

 幸子 ただ家計面からみると、単純に専業主婦世帯の2倍のローンが借りられるとは考えないほうがいいかも。共働きの女性の多くは出産後は残業をしない分、給料が減る時期があるし、職場復帰後は保育園や小学校の放課後の預け先の費用、外食の支出などがかさむの。ファイナンシャルプランナー(FP)の深田晶恵さんは「妻が仕事を続けられるかどうか、ペアローンを組む前に夫婦で慎重に考えて」と忠告しているわ。

  住宅資金って、どうやってためればいいのかしら。

 良男 住宅は一般に数千万円単位の出費が必要で、よく「人生最大の買い物」といわれる。FPの久保田正広さんは財形住宅貯蓄を推薦していて、理由として「財形住宅貯蓄は給与天引きで、元本550万円までの利子について非課税のメリットがある」と説明しているよ。

 幸子 大手銀行によると、住宅ローンの契約者は30歳代後半が多いの。結婚して子供が生まれ、教育費など家計の収支見通しが定まったころね。FPの深田さんは「住宅購入時期は第1子の小学校入学前が理想」と助言しているわ。就学前なら引っ越しやすいし。それまではコツコツ蓄えることね。

  夜景のきれいな湾岸エリア、閑静な住宅街の一角……。どれもすてきに見えるわ。

 良男 今は必ずしも高額な新築物件ばかりが狙い目じゃないぞ。大都市圏では良質で値ごろ感のある中古物件も多いから、不動産情報サイトで気に入った物件の相場をチェックしておくといい。住宅ローン仲介大手、アルヒの「家の検索」は自分に近い年収の人の過去の購入例をチェックできるんだ。

  ローンを組むとき、頭金はどの程度、必要なの?

 良男 頭金が多いほど毎月の返済額は減る。みずほ銀行のウェブサイトで4000万円の物件を購入したとして返済期間25年で試算してみたら、頭金ゼロの場合は毎月の返済額が約13万2000円なのに対し、20%だと約10万5000円、50%では約6万6000円にとどまる。ただ、最近は超低金利ということもあり、頭金なしでローンを組む例も増えているんだ。

  住宅資金に関する公的な支援はあるのかしら。

 良男 代表的なのが住宅ローン減税。10年間で合計最大400万円、長期優良・低炭素住宅なら500万円の所得税の控除を受けられる。所得税額が住宅ローン控除額より少ない場合は住民税からも最大13万6500円が控除できる。マイホームを転売するなら譲渡所得の特別控除(住宅ローン減税と併用できない)、年収510万円以下の人なら消費増税の負担を緩和する「すまい給付金」もあるな。

 幸子 忘れてならないのが親からの援助。住宅取得資金の贈与非課税枠を使えば、基礎控除110万円に加え、一般住宅なら700万円、省エネや耐震の性能が高い良質な住宅なら1200万円が非課税対象になる。ハウスメーカーの住友林業の営業経験者も「親に相談したら意外と援助を受けられたという顧客は多い」と話していたよ。

  うちはどうなの。

 良男 心配するな。……と言いたいところだが、あまり多くを期待しないでくれ。65歳にならないと年金はもらえず、老後の資金づくりが難しい。15歳の満の教育費はまだかかる。住宅ローンも返済中だ。FPの深田さんは「60歳で700万円程度のローン残高にとどめないと、『老後貧乏』に陥る可能性がある」と警告していたよ。

  住宅ローンの金利は今、かなり低いんでしょ?

 良男 日銀のマイナス金利政策の影響で金利はかなり低水準だ。変動金利型の金利は0.5~1.1%前後と低いが、政策金利が上がれば金利負担は増す。今、人気なのが全期間固定型(期間35年で0.7~2.3%前後)。変動と固定の金利差が縮まったこともあり、多くの金融機関で顧客が全期間固定型にややシフトしているらしい。

 幸子 最近はあまりの低金利で「繰り上げ返済は慎重に」との助言も多いわ。ローン完済を焦るあまり教育資金などが足りなくなり、そういった資金を高金利で借りたら損よ。貯蓄の残高を把握し、返済額を調整していきたいわね。

■賃貸を軸にした発想も必要
 ファイナンシャルプランナー 紀平正幸さん
 「家は買うものだ」と決めつけていませんか。買えば住宅取得額以外にも維持費、税金などがかかります。長い人生、病気で仕事をやめたり、転職したりすれば収入も変わります。共働き世帯は、どちらかの転勤時に家をどうするか考える必要があります。現役時代は賃貸に住み続け、住宅を買わない分のお金を運用し、リタイア後に家を買うのはどうでしょう。
 35歳で自己資金1000万円を仮に1%で運用し、月当たりの維持費5万円を同率で積み立てれば、65歳時点で3500万円近い資産を形成できます。その時点で夫婦に合った住まいを購入。最後は誰かに貸すことを視野に、駅に近いなど利便性の高い物件を選ぶとよいでしょう。住宅を買えば価値が上がり、子供に多くの財産を残せる時代は終わりました。賃貸を軸にした発想への転換も大切です。
(聞き手は南毅)

[日本経済新聞夕刊2017年7月19日付]

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