2017/7/22

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60歳以降も、企業年金があれば生活の支えになる。しかし、企業年金はかつてのように終身でもらえるケースが激減しており、現在は10~15年程度の有期型が多い。4つ目の崖はこの有期型企業年金の終了だ。

都内の男性Bさん(76)は2年前、日課のランニング中に脳梗塞で倒れて寝たきりになり、有料老人ホームで介護を受けながら暮らす。「ただでさえ支出がかさむのに、月に約15万円あった企業年金が75歳で打ち切りになり、その後は毎月貯金を取り崩している」

Bさんは「退職時に説明を受けたはずだが、15年間で打ち切りになることを認識していなかった」と話す。企業年金から支給がある間は支出も多くなりがち。ファイナンシャルプランナーの深田晶恵氏は「企業年金が打ち切られる頃には貯蓄があまり残っておらず、その後の生活に困る人も多くみられる」と話す。

配偶者死亡で年金減少

第5の崖は、配偶者の死亡による公的年金の減少だ。夫の現役時代の平均年収を600万円、妻は専業主婦などとして計算すると、夫婦ともに生きていれば受け取る年金額は計288万円(図C)。月額にして約24万円で、高齢夫婦の無職世帯の平均支出額(27万円程度)を下回る。

夫が先に亡くなると年金はどれくらい減るのか。よくある勘違いが、夫の年金総額(厚生年金と基礎年金)の4分の3に相当する金額が遺族年金として支給されるというもの。だが実際には計算に夫の基礎年金部分は含まれない。この例では厚生年金(132万円)の4分の3に当たる約99万円が遺族年金となる。

これに加えて妻は自分の基礎年金(78万円)を受け取るが、それでも合計で177万円。夫婦で受け取れる金額に比べると約110万円も減ってしまう。「支出は一人になっても大幅には減らない。毎月の赤字幅が大きくなるのは避けられない」(深田氏)

「収入減、家族に宣言を」

専業主婦の妻が先に亡くなった場合は原則、18歳までの子どもがいないと遺族年金は出ないので、夫は自分の年金だけになる。減額幅は78万円と比較的小さいが、夫は家事が苦手で外食が増えたり、家事代行サービスを頼んだりして生活費がかさみがち。やはり赤字幅は増えやすい。

様々な崖を乗り切るには現在の年収がいつまでも続かないことを認識したうえで(1)夫婦ともに長く働く(2)生活を身の丈にあった水準に直す――などして貯蓄をなるべく多く残しておくことが大事だ。特に(2)に関して深田氏は「配偶者や子供にみえを張らず、収入が減った場合はきちんと宣言すべきだ」と助言している。

(編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊2017年7月15日付]