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珍味? アメフラシ 「顔のない生き物」のはずが…

立川談笑

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NIKKEI STYLE

テーマは海。西日本の、小さな島を訪れたときの話をします。

お天気は上々です。波が荒れることもなく、無事に船が島に着いたのは午後の早い時間。民宿に撮影機材などの荷物をおいて、私たちはさっそく海を眺めに浜に出ました。うーん、いつ見ても海は気持ちがいい! と言いたいところですが、そうでもありませんでした。というのも、目の前の浅瀬には巨大なナメクジみたいな生き物がごろごろとしていたのです。その名も「アメフラシ」。ふくれた靴下くらいのサイズで、紫色のヌメヌメした身体。なにより顔のないのが決定的につらい。魚でもカニでもエビでも、みんな顔はあるもの。あ、私は個人的に「顔がない生き物」が苦手なのかもしれないと、たった今気づきました。ミミズ、ナメクジ、ヒル。うひゃあ。

カタツムリをエスカルゴと称しておいしく召し上がっている皆さんを見ると、何かを克服しきった強い精神を感じます。ご本人たちはそんな自覚もないんだろうけど、一方的に尊敬してます。カタツムリの、目だか角だか、あれは顔なのでしょうか。でんでんむしむしの歌では確か、「おまえの目玉はどこにある。つの出せ、ヤリ出せ、頭出せ」と。うーむ、逆に謎は深まるばかりです。で、あれとちょうど同じような頭部をアメフラシも持ち合わせているのですな。長いのが2本と短いのが2本。彼らは仲間なのかしら。

しかもこのアメフラシ。ちょっと間違ってビーチサンダルの先で触ろうものなら、激しく身をよじってあたりに紫色をした液体をまき散らすんです。

「痛いですー。いっぱい血が出ました。とても痛いです。大怪我しました。この人のせいですー」

ごめんよ、ごめんよ。それにしてもなんて大げさなやつなんだ。話はそれますが、サッカーの国際試合なんかを見ているとこういう選手がたまにいますよ。プレーの最中、相手選手とちょこっと身体が触れただけなのに、派手にゴロゴロっとぶっ倒れて骨折でもしたかのように膝だとかを抱えて転げまわって大げさに痛がる、あれ。審判からファウルの判定をもらえないとなると、ケロッと立ち上がってまた元気にプレーに戻るっていう。あれが私は大嫌いなのです。テーマの海とは全く関係ないけれども。

「あのようにしてファウルを獲得した行為を、チームに貢献するプレーだと肯定してはいけない。嘘つきを推奨することになる」

「僕は試合中にどれほど痛くても、決して痛さを顔に出さないようにしてきた」

これは、あるボクシング元世界チャンピオンの言葉からの引用です。そうだそうだ。

 おっと、話はアメフラシ。その日の浜辺は、見渡す限りアメフラシだらけだったのです。雄大な海。赤く染まった夕焼け。果てしなく広がる水平線。寄せては返す波の音。さわやかな潮風。そして足元には大量のアメフラシ。ほら、台無しだ。本当にアメフラシくんには申し訳ないけど、苦手なんだ。しかも単体を見つめても目をそらしたくなるアメフラシが、おびただしい数でひしめいている様子は、何というかもう「海」なんてどうでもいいくらいなのです。

そうして夕暮れのひと時、浜辺でヌメヌメした生物群に圧倒されていると、地元の漁師さんが気さくに声をかけてくれました。日本中どこに行っても感じるのだけど、島の人というのはよそから来た人に対するハードルが低い気がします。はるばる海を越えて流れ着く人々に接してきた歴史など、何か共通点があるのかもしれません。

「くってみっか?」

漁の片づけ仕事をしながら、真っ黒に日焼けしたおじさんが笑いかけてきます。

「宿で料理してくれって言えばやってくれっから。よっこらしょ」

おじさんは、やおら前かがみになると大きなアメフラシを素手でわしづかみにして、スーパーの袋に放り込んでくれました。

「ありがとうございます」

悪い冗談なのかと半ば疑いつつお礼を言い、そのまま宿に戻って言われた通りに女将さんに手渡しました。

「じゃあ、晩ご飯に一緒に出しましょうね」

なんて普通のやりとりなんだ。今もらってきたのは、魚でもお豆腐でもない、アメフラシだというのに。

この日はロケ取材のために島に入った初日。しかもいわゆる「まえのり」というやつで、実際の仕事はあくる日からなので何もすることがありません。まだまだ夕飯まで余裕があるし、海辺はもういいや。かといって、島の小さな漁師町には暇をつぶせそうな場所は見当たりません。

さまようことしばし。やっと見つけた古いパチンコ店に入ってみました。明るい店内ではありますが、お客の姿はありません。「そりゃそうだよなあ」と、意味不明の納得をしながらあちこちシマを回ってみます。パチンコ台の並ぶ列を「シマ」と呼ぶのです。意外なところでシマめぐりだ。台は新しい。でも客はいないなあ。

おや? ひとつのシマだけやたらと客が集まっています。見たところ、仕事を終えた漁師さんたちです。大漁や不漁の波がある海の仕事は、ギャンブルに似たにおいがあります。どんな台がここでは人気なんだろうとのぞき込むと、みんなが打ってる台はなんと「海物語」でした。どこまで海が好きなんだー! うそのようで、本当の話。あれは笑ったなあ。

夜。宿に帰って、いよいよアメフラシとご対面です。食卓に出てきたのは、小鉢がぽつんとひとつ。大人の靴ほどもあったものがほんの一握りくらいになっちゃった。縮んでしまうんだね。これが「アメフラシの山椒(さんしょう)煮」。しょうゆで甘辛く煮付けた色で、5ミリ角のさいの目になっています。おっかなびっくり手をのばしました。

「いただきます」

小さなひとかけらを箸でつまんで、よく見てみると角が4本。うわっ! 「顔」だ。

 ◇   ◇   ◇

次回のテーマは「写真」でいこう。笑二から、よろしく。

(次回7月23日は立川笑二さんの予定です)

立川談笑
 
1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。

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