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サックスの須川展也 金賞常連の吹奏楽指揮

2017/7/15

 サクソフォン奏者の須川展也さんが吹奏楽団の指揮でも活躍している。2007年から常任指揮者を務めるヤマハ吹奏楽団(浜松市)は全日本吹奏楽コンクールで出場7回すべて金賞と連勝中だ。ソロでは坂本龍一さんに委嘱した新作を6月に世界初演した。日本サックス界の大御所に吹奏楽とソロ演奏の方向性を聞いた。

「出ると金賞」の吹奏楽団を指揮して7勝

 ヤマハや河合楽器製作所などが本社を構える楽器産業の集積地、浜松で育った須川さん。浜松北高校から東京芸術大学に進学した彼にとって、ヤマハ吹奏楽団の練習場に通うのは、気軽な帰省のような楽しみだ。「夕方に東京から浜松へと新幹線に乗って行けば、夜7時から9時までの彼らの練習に間に合う。東京の自宅にとんぼ返りしたり、浜松を翌朝出てそのまま仕事先の学校やコンサート会場へ直行したりしている。毎週とまではいかないが、高い頻度で通っている」と言う。

吹奏楽団の指揮や坂本龍一さんの新作について語るサクソフォン奏者の須川展也さん(6月30日、東京都港区)

 東京芸大を卒業後、日本吹奏楽界の頂点に君臨するプロ楽団の東京佼成ウインドオーケストラで1989~2010年の22年間もコンサートマスターを務めた。ヤマハ吹奏楽団を常任指揮者として率いるようになってからは、07~16年の10年間に全日本吹奏楽コンクールに7回出場してすべて最高の金賞を受賞した。「出ると金賞」といわれ、アマチュアと呼ぶには演奏水準が高い常勝集団なので、最近はコンクール出場と大都市圏での主力コンサートをそれぞれ1年おきに行っている。17年はコンサートの年で、9月2日に東京オペラシティコンサートホール(東京・新宿)、10月1日にはザ・シンフォニーホール(大阪市)で公演する。

 ――ヤマハ吹奏楽団の特徴と活動方針は。

 「ヤマハグループの従業員で構成され、中心メンバーは工場で楽器を製作している匠(たくみ)の人たちだ。僕は『匠のバンド』と呼んでいる。演奏の腕前はプロと変わらない。僕が常任指揮者になったのは、プロの指揮者ではなく、楽器のプレーヤーとして活躍している人に指揮をしてもらいたいとの楽団側からの依頼があったからだ。コンクールでいい成績を取り続けるだけでなく、素晴らしい音楽を多くの人々に聴いてもらったり、先端の作品に挑戦したりするのも重要だと考え、2年に1年はコンクール、もう1年は演奏旅行やCDレコーディングに当てるという提案をした。これが会社側に受け入れられ、2年周期で動き始めたところだ」

 ――どんな音楽づくりをしているか。

 「僕はクラシック音楽のサックス奏者ではあるが、東京佼成ウインドオーケストラでコンサートマスターを長く担当していた。このため吹奏楽団が受け持つ音楽にはシリアスなものからジャズやポップスなど親しみのある曲まで幅広いレパートリーが必要だと認識している。オーケストラと比べ、吹奏楽は歴史が浅い。まずは管楽器だけでこれほどすごいことができると聴き手に知ってもらう必要がある。ヤマハ吹奏楽団でもクラシックから楽しいポップスまで演奏し、広く愛される楽団にしていきたい。きちんと整理整頓された音楽ではなく、聴き手に心を開いてもらえるような演奏を心掛けている」

ジャンルを越え洗練された音楽世界を描く

 本来のサックス奏者としてもコンサート、レコーディングともに旺盛な活動を続けている。最新アルバムCDは16年10月に出した「Masterpieces」。現代ジャズ界の巨匠チック・コリアさんに委嘱した「アルト・サクソフォンとピアノのためのソナタ“Florida to Tokyo”」のほか、トルコを代表するピアニストのファジル・サイさんが作曲した「組曲~アルト・サクソフォンとピアノのための 作品55」、吉松隆さんの「サイバーバード協奏曲 作品59」(ピアノ・リダクション版)という現代作品3曲を収めた。ピアノ共演は妻の小柳美奈子さん。サックスとピアノの研ぎ澄まされた音色が、ジャンルを越え洗練された音楽世界を描く。特にファジル・サイさんの作品は哀愁を帯びたトルコ風の美しい旋律が胸を打つ。

アイルランド民謡「ロンドンデリーの歌」を吹くサクソフォン奏者の須川展也さん(6月30日、東京都港区)

 6月11日には「新CD発売記念」と称して東京・銀座のヤマハホールで「須川展也サクソフォン・リサイタル」を開いた。ここでもピアノ共演は小柳さん。2人が世界初演したのは、須川さんが委嘱した坂本龍一さんの新作「Fantasia for alto sax and piano」だ。

 ――サックス奏者として注力していることは。

 「クラシックのサックスの良さを知ってもらおうと頑張っているつもりだ。ピアノやバイオリンのコンサートが当たり前にあるように、サックスのコンサートも増えるように引っ張っていきたい。さらには社会貢献を考えるべきだ。音楽を聴いて癒やされたい人たちが様々な状況下にいる。そういう人々に音楽を届け、一緒に演奏もし、楽しさや明るさを共有したい。学校や様々な施設に出向いて演奏するアウトリーチ(地域奉仕や現場出張の活動)だ。自分のコンサートの前後にも、楽器を持っているお客さんと一緒に吹く試みをしている。難しい音楽だけでなく、みんなが参加できる演奏活動を通じて、音楽が少しでも人々の生活の一部になり、皆さんの心が潤うような社会貢献をしていきたい」

 ――サックスのレパートリーを増やす取り組みは。

 「オーケストラでサックスが使われる曲はビゼーの『アルルの女』やラヴェルの『ボレロ』などがあるが、まだ少ない。みんなが知っているクラシックのサックス向け作品は、楽器の歴史が浅いだけにわずかだ。やはりポール・デスモンドの『テイク・ファイブ』といったジャズ・サックスの曲の方がみんなに知られている。ジャズが作ったサックスの伝統と、クラシックで伝えられている音楽を上手にミックスし演奏していきたい」

坂本龍一さんの新作を世界初演して考えたこと

 ――作曲家に依頼した新曲を世界初演する「委嘱初演」にはどう取り組んでいるか。

 「日本の有名な大作曲家にはたくさん委嘱してきた。協奏曲やソナタなどいろんな作品を書いてもらい、初演した。ジャズの巨匠のチック・コリアさんにもソナタを作曲してもらった。このあいだは坂本龍一さんにも作曲をお願いし、初演した」

 ――坂本龍一さんの新作「Fantasia for alto sax and piano」を世界初演した感想は。

吹奏楽団の指揮やソロ演奏など様々な音楽活動を展開するサクソフォン奏者の須川展也さん(6月30日、東京都港区)

 「精神性の強い素晴らしい出来栄えだと思う。がんを患った坂本さんが、病気と戦った後、復活した頃に書いた曲。こうした時期の彼の思いを読み取れたときに、音楽の持つ深遠な世界をちょっとのぞけた気がする。人間は長い歴史の中で生活を便利にし、社会を発展させてきたが、結局は人間とは生きて死んでいくものだと考えた。自分が生きた空間とは何だったのかを問われている気がした」

 「坂本さんの新作はサックスとピアノで空間を震わすことによって、自分は何者なのか、自分はどこから来てどこへ行くのかを聴き手と感じ合う曲だ。演奏を終えたとき、答えでも問いでもなく、聴き手の皆さんと一緒に残響の空間を共有している気分になった。演奏技術的には難しい曲ではない。しかし音楽がシンプルになればなるほど逆に演奏は難しい。坂本さんから新たな課題をもらったと思っている」

 プロとして30年以上のキャリアを重ねる今、「作曲家への委嘱活動を続けながら、サックスを通して皆さんに何を伝えられるかを考えなければいけない時期にある」と自覚する。約30に及ぶ多数のCDを出してきただけに、「さらに新たなアルバムを出すには、確かな意義がなければならない」。委嘱作品についても「過去の作品を再び吹いてみる温故知新が必要だ」と言う。

 「ムード・テナーの帝王」と呼ばれたサム・テイラーを聴いてサックスに目覚めた須川さん。ビゼーの「アルルの女」と出合ってクラシックのサックスに傾倒していった彼は、委嘱活動を通じて自らこの楽器のレパートリーを増やしてきた。吹奏楽団の指揮も加え、活動分野を広げた大御所は、急がず、着実にサックスの世界を深めていく。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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