発言は20秒 「やりすぎ」会議改革、働き方が激変
会議は、会社の縮図のようなもの。効率が悪い、数が多い、実のある議論ができない。こう考えて会議改革に取り組む会社は少なくありません。日本茶などの包装資材や雑貨の製造販売を手掛ける吉村(東京都品川区)は、社内のすべての会議スタイルを一変した結果、女性や若手社員の参画意識が高まり、働き方が大きく変わりました。
伝統的な日本茶の茶袋製造から出発し、現在ではデザイン性の高い茶器やギフト用パッケージ、和のスイーツや雑貨など独自企画のヒット商品を次々展開、知名度を上げています。
社員の37%を占める女性のうち、出産で退職した社員は皆無。育児休暇中に新商品企画を発案したり、時短勤務で復帰して3カ月でフルタイム勤務に戻る社員もいるなど、女性が活躍する職場でもあります。全体の離職率は2013年の10.15%から16年には1.9%へ、5分の1以下に減少しました。
働き方改革のまさに出発点となったという会議改革について、橋本久美子社長に伺いました。
研修で知り合った女性の言葉に「ムカつく…」
橋本さんは3代目。11年前に社長に就任してから、社員の意見を経営に反映したいと会議の改革を試行錯誤していました。
橋本社長の実父である先代社長は「なんでも自分で決める」トップダウン型リーダーでした。当初は会社を継ぐという意識はなく、結婚して主婦となり社宅生活も経験していた橋本さんは、社長に就任後「社員みんなの意見を聞こう」と、全員参画型の会議を立ち上げました。しかし、若手を中心にうまくいった会議もあれば、議長が主に話すだけで終わってしまうような会議もあり、会議の成果には大きく差が出ました。「標準となるような会議スキルが必要だ」と考えた橋本さんは商工会などの研修をいくつも渡り歩いたといいます。
そうした中、ある研修会で隣の席になり、一緒にディスカッションをした女性に、研修会からの帰り道でこう言われます。
「会社でもそうやって、何でも全部一人で引っ張ってらっしゃるの?」
何気ない一言でしたが、「あぁムカつく」とカチンときた橋本さん。しかし、その女性の「会議は決めることが目的ではないですよね。会議は単なる始まり。決まったことを皆がやろうと思えるようになることが会議の目的」という言葉も気になりました。
「いつも私から一方的に『みんながんばろうね!』と社員を奮いたたせているつもりで会議を進行していたけど、気持ちいいのは自分だけだったのかな、と」
そこで8年前、同社は会議改革に取り組み始めます。研修会で一緒になったCHEERFUL(東京都千代田区)代表の沖本るり子さんの指導のもと、「5分会議」の手法を導入。全社員217人にこの会議スタイルを浸透させていきました。現在は、全社員参加で行う年2回の経営会議から、社員2人が現場でちょっとしたことを決める「ミニ会議」まで、すべての会議がこのスタイルです。
「5分会議」の基本は、1つの会議を原則5~6人以下で行い、1人が1回に発言する時間を20秒以内に制限。5分を1つの区切りとして、その間、20秒ごとに発言者を次々に回します。「司会者」「書記」「タイムキーパー」を決め、会議ごとに交代。誰もが司会者や書記を経験するため、書記がまとめやすいよう短い時間で言いたいことが伝わる話し方がおのずと訓練されます。実際のスケジュールは秒きざみ。キッチンタイマーを鳴らして進行を管理します。
古い体質が残っていた同社にとって、こうした会議改革は挑戦的な試み。始めたころは反発も多かったと橋本社長は振り返ります。「会議は、上が決めたことを発表する場」と思い込んでいた経営幹部の中には、自分が話し続けようとする目の前でキッチンタイマーを鳴らされ、拍手で終わりを促されて激高してしまう人もいたといいます。
会議は一人ひとりの意見を聞き、どんな些細な問題点も先に出してリスク管理までする場であるべき。それを理解し、徹底すると社員も会社も変わると橋本社長は言います。
持ち時間20秒の超速会議で「派閥」が消えた
実際の会議では、テーマに関する視点を「良い点」「悪い点」などと細かく区切って、それに対する意見を1人20秒ずつ、矢継ぎ早に発言していきます。出した意見についてジャッジはせず、書記がひたすら記録。短い持ち時間のため、反射的に言葉が出てきます。
発言ができなかったらパスは可能ですが最大2回までというルール。「〇〇さんの意見に賛成です」という類いのコメントはNGで、他人と同意見だったとしても自分の言葉で発言しなければなりません。「おかげで社員一人ひとりが、要点が分かりやすいよう結論から話すようになり、自己紹介するにも必ずオチがあって笑いがとれるような話し方ができるようになりました」(橋本社長)
この会議の最大の特徴は、短い持ち時間で何周も発言していくために、誰がどんな発言をしたかが分からなくなるという点。従来の会議では、意見の中身よりも「誰が言ったか」が重視されることがありました。「〇〇さんがこう言ったから……」とか「××さんは反対派だ」といった意識がなくなると、誰もが本音の意見をどんどん出せるようになったそうです。
さらに「普段、否定的なことばかり言う『評論家タイプ』の社員が生き生きとして本領を発揮し、鋭い『否定的意見』をどんどん出してくれる」というメリットも。否定的な意見を出すのは決して悪いことではなく、やるべきことがはっきりと見えて、リスク回避にもなると沖本さんも言います。
会議改革に取り組むうちに会社の風通しもよくなったといいます。以前は社内に存在した「〇〇部長派」といった派閥が消滅したのです。「昔は、意見が対立するのはまずい、よろしくないことでした。しかし今では、意見の対立は新しいアイデアが出てくるチャンスととらえています。きれいな結論が出なくても、とにかく会議で決まったことを1度やってみてまた考える、という姿勢が実行力を生んでいると思います」(橋本社長)
どんなことでも皆による会議で決めるおかげで、部署間の壁が低くなり、協力度が上がったといいます。例えば同社では営業部と物流センターの連携に課題がありました。営業部は注文締め切り時間である午後3時以降にも顧客からの注文にこたえたい一方、物流センターは手作業による誤発送を避けるため時間外出荷をできるだけ断っていました。両者の対立を解決したのは会議です。
営業スタッフと物流スタッフが会議を行う中で問題点を明確化し、時間外でもミスなく出荷できる方法を模索しました。「『時間外出荷』という言い方もよくない」という現場の意見で「お客様貢献出荷」という呼び方に変更。年間1600万円の売り上げが上乗せされました。
「ルールは絶対ではなく、いつでも変えられるし、変えていくべき。そのときのベストがずっとベストであるとは限らない。そういう柔軟な思考が根付いてきました」(橋本社長)
2016年5月には中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」人材部門に選定。2017年3月には経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」にも選ばれました。
橋本社長は、こうも話してくれました。「社員に何かを押し付けたり、やらせたりするよりも、一緒に考えて自ら動かしていくという意識、責任感が大事です。そのために必要なのは仕組み。弊社の場合は会議改革によって仕組みができました。これからも環境改善を続け、働きやすい居心地のいい会社であり続けたいと思っています」
(ライター 大崎百紀)
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