「ロシア人ってマヨラーなんですよ」と横地さんは笑う。その上品な味に今ひとつB級グルメ感の漂う「マヨラー」という言葉がピンとこなかったのだが、後でネットでレシピを調べてみると、「ロゴスキー」のレシピとは異なり、具材の層と層の間にマヨネーズをたっぷり塗るとあった。なるほど。

キャビアのお供にも欠かせないロシアのパンケーキ、ブリヌイ

個人的に、「毛皮のコートを着たニシン」のようなサラダに抜群に合うと思うロシアの食べ物がある。ロシア風パンケーキ、ブリヌイだ。ロシアではチェーンの専門店もあるほどポピュラーな食べ物で、ひき肉やサーモンを巻いて食べたり、ジャムと一緒に食べたり。もっちりとした食感で、細かく刻まれた野菜を載せても、酢漬けニシンを載せて食べても、それはそれはおいしい。なかなか食べるチャンスはないが、超高級食材のキャビアを食べるときにも欠かせない一品だ。

ストロガニーナ ロシアでは写真のような凍った魚を削ったものが主流

「簡単なロシア料理を日本で再現しようとすると、ものすごく手間がかかったりするんです」と横地さんは言いながら、「ストロガニーナ」という耳慣れない料理の話もしてくれた。メニューの説明書きには「シベリア風冷凍削り牛肉」とある。

「シベリアは氷点下数十度になるような土地でしょ。ほうっておけば食材は勝手に凍るんです。切れないから薄く削って食べるしかない。でも、それを日本でやるとわざわざ冷凍庫に入れて削ってってなるんですよね。食文化って本当におもしろい」。ロシアでは牛肉ではなく、主に生魚を用い、肉なら野生のシカやウサギなどを使うことが多いと言うが、冷凍にすれば寄生虫は死滅し、病原菌の繁殖も防げる。現地の生活の知恵でもある。

「ロゴスキー」の牛肉のストロガニーナ

冷凍して削って食べておいしい牛肉を研究した結果、現在、「ロゴスキー」では赤身と脂のバランスがいいオーストラリア産の牛肉を使用している。日本では生肉の扱いには規制があるので、軽く表面をロースト、ぎりぎり生の風味が残るようなローストビーフにしてから凍らせているという。

うっすら霜の付いた薄切り肉を食べてみると、口の中の温度ですっと軟らかくなったが、喉を通るとき少しひやっと感じた。ピリ辛の和風だれをかけて食べるのだが、脂が少ない肉なのでさっぱりとして、一人でペロッと一皿平らげられそうだった。「これ、ウオッカに合うんですよ」と横地さんは魅惑的なことを言う。実際、この肉料理を肴にウオッカを飲む人は多いらしい。

創業のきっかけとなった「バーブシュカ(おばあちゃん)のロシア漬け」

店を出るとき、「ロシア漬け」をテイクアウトした。キャベツをはじめ数種の野菜をロシア風ピクルスにしたものだ。そもそも、緑さん美代さん夫妻が「ロゴスキー」を開店するきっかけを作ったのはこの漬物。終戦直後、「つまもの屋」を営んでいた2人が客に店に出していたロシア風漬物を前に、「これだけおいしいロシア漬けができるならロシア料理店を開けば」とアドバイスされたのだ。

ボルシチにも入っていたキャベツの酢漬けを食べてみると、スープで食べたときとは異なる生野菜のフレッシュ感が残る、シャッキリとした食感にうれしくなる。これが、「これだけおいしいロシア漬け」か。ああ、ブリヌイとウオッカと合わせたら最高だろうな、などと思いながら、また1枚キャベツをかじった。

(フリーライター メレンダ千春)