ホリプロが挑む世界的ミュージカル 次元違う子役育成
2017年7月19日から、ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』が、東京と大阪で上演される。不況にあえぐ英国北部の炭鉱の町を舞台に、バレエに出合った少年が、父や兄に反対されながらも、名門のバレエ・スクールを目指して歩んでいく物語。スティーヴン・ダルドリー監督が、2000年公開の映画に続いて舞台化したもので、05年にロンドンで幕を開けてから長きに渡り、ロングラン公演が続いていた作品だ。
この作品を日本に持ってきたいと真っ先に手を挙げたのがホリプロだった。「開幕してすぐに見に行った堀義貴社長が、完全に打ちのめされたようです。14年に『まだ興味はありますか』と声がかかり、契約に至りました」(公演事業部ファクトリー部チーフプロデューサー・梶山裕三氏、以下同)。
以前からホリプロは、『マルグリット』(09年、11年)や『ラブ・ネバー・ダイ』(14年)など、海外の演出をそのまま上演する作品を日本で手掛けてきている。ただし、動員は最高で8万人。今回は東京で12万人、大阪で5万人となる。
興行の規模もさることながら、業界で注目されたのは、1年以上をかけて主役を選ぶ育成型のオーディションだ。15年11月から募集を開始。書類審査を通過した450人が、16年4月の二次審査で10人に絞られた。彼らには個別のカリキュラムが組まれ、5月からダンスや体操などのレッスンをスタート。8月の三次審査では7人に厳選され、さらにレッスンを継続、12月の最終選考で合格者が決定した。これらのレッスンは全て無料、候補者の居住地である東京、大阪、北海道の3カ所で場所を確保し、海外スタッフの承認を得たコーチが指導に当たったそうだ。
ホリプロが日本で上演する真意
オーディションは、できない子には教えながら、1時間程度課題に取り組んでもらう形。「海外スタッフが見ているのは、どのぐらい伸びそうか、成長のポテンシャルの部分。そして、『ここまでできたね、すごいよ』と言って終わるんです。挫折感を味わってほしくないという方針で、その場での合否発表もありませんでした」。
ビリー役には、バレエ、タップダンス、体操、歌、芝居などの全てのスキルが必要であり、一連のやり方は、クリエイティブ・チームが長年の経験で構築したもの。稽古でも、日本では大部屋に全員が集まることがほとんどだが、メインスタジオ、ダンススタジオ、音楽スタジオと、6~7部屋で同時に稽古が進み、経験豊富な大人キャストの面々も「こんなに緻密なやり方は初めて」と驚いているそうだ。「35年間『ピーターパン』をやってきていて、我々も多少自負はあったんですが、正直、次元が違いました(笑)。ここまで手間暇かかるんだと、戸惑いながらも実感しているところです」
日本では専用劇場を持っている劇団四季や、東宝以外は、1カ月30公演が平均的。劇場は3年先まで予定が埋まっているため、現状では長く続けることは考えていない。それでも、予算をかけてこの作品に挑んだのは、「世界にとって日本は重要なマーケット。この公演ですべてを回収しようとは全く思っていなくて、『ビリー・エリオット』を成功させたという実績が、今後世界的な方々と一緒に仕事をするための布石になればと考えているんです」。
あらゆるダンスを駆使して約3時間を引っ張るビリーと、1シーンごとに泣けるストーリー。「圧倒的なステージだからこそ大人に見てほしい」と自信を見せる。
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2017年8月号の記事を再構成]
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