渡辺直美が主演 「火10」が女性ドラマの新定番枠に
TBSの火曜夜10時のドラマ枠(「火10」)が、恋愛や結婚をテーマに、生き方への問いかけを含んだ女性ドラマの人気枠として定着してきた。2016年に大ヒットした『逃げるは恥だが役に立つ』をはじめ話題作を次々と送り出し、この7月18日からは『カンナさーん!』がスタート。お笑い芸人の渡辺直美を主演に抜てきして、注目を集めている。
「火10」は、16年の10月期作品『逃げるは恥だが役に立つ』が、最終回視聴率で20.8%を記録するヒットになったのに続き、17年に入ってからも話題は尽きない。1月期の『カルテット』は、伏線の深読みなどでSNSが盛り上がり、メインキャスト4人(松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平)が歌う主題歌『おとなの掟』は、主要配信サイトで1位を記録、最終回放送後にもダウンロード数を伸ばした。4月期に放送された『あなたのことはそれほど』は、主人公(波瑠)が躊躇なく不倫をする物議を醸すテーマでネットニュースをにぎわせ、最終回では全話を通して最高となる14.8%の視聴率をあげる話題の広がりを見せた。
14年4月に新設された、TBSの火曜ドラマ(以下、火ドラ)の枠は、当初は職業ものが多かった。方向性を変えるきっかけは、16年1月期に放送したラブコメディ『ダメな私に恋してください』だったと、編成局編成部ドラマ担当部長の磯山晶氏は振り返る。
「週の前半の夜に、OLさんや主婦の方が見やすいものって何だろうと模索していたなかで、『ダメ恋』がF1(20~34歳の女性)、F2(35~49歳の女性)の層にはまった手応えがあったんです。『火ドラ』の色を打ち出すなら、この路線しかないなと」
モヤモヤする部分も楽しさ
『ダメ恋』以降は、『カルテット』を除きすべてマンガ原作。そのうち『重版出来!』以外はラブストーリーだ。女性が主役で、そこに現代の生き方への問いかけがプラスされているのが火ドラのカラーになった。マンガ原作ありきではないが、3カ月間視聴者の興味を引きつけ、意外性や発展があり、最終回に納得できることを考えると、オリジナルはハードルが高いという。
そのなかで『カルテット』は、坂元裕二脚本という条件で、かなり前からキャスト4人が決まっていたイレギュラーな案件だった。最初の企画書の段階ではサスペンス色が強かったが、火ドラのカラーが変わったことを受けて、男女の話を色濃くして、枠の視聴者属性に寄せるようにプロデューサーと相談したという。
「恋愛や結婚は普遍的なものであり、より間口が広いので。そこに、何が正解か分からない提案を結びつけているのが火ドラの特徴ですね。同居から始まる結婚(『逃げ恥』)とか、罪悪感のない不倫(『あなそれ』)とか。モヤモヤする部分があるのも火ドラの楽しさかなと捉えています」
その方針は、今の視聴者の傾向ともマッチした。「以前だったら、セリフにキュンとするとか、共感が大切でしたが、言外のことを斟酌(しんしゃく)するのが好きな人が増えましたよね(笑)。『あなそれ』なら、涼太(東出昌大)が狂気で怖いんだけど、『あの人の気持ちも分かる』とか。想像して盛り上がるので、SNSとの相性がよく、相乗効果があるなと感じています」
女性向けの恋愛ドラマと明確に定義してからは、営業面でも功を奏し、スポンサーの数が増えた。「とはいえ、視聴率ではまだ成功とは言えません。ネットで話題になった分をどう数字に結びつけるかが課題です」と先を見据えている。
7月18日からスタートする『カンナさーん!』は、渡辺直美を主役に起用。アパレル会社の雇われデザイナーのカンナが、イケメンだがふがない夫や、何かと口をはさむしゅうとめ、理不尽なドS上司に振り回されながらも、仕事と子育てに奮闘する。お笑い芸人を抜てきした異例のキャスティングで、「火10」が今度はどんな新しいヒロイン像を見せてくれるのだろうか。
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2017年7月号の記事を再構成]
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