マネー研究所

投資道場

中国経済は徐々に安定へ 金融、インフラ株に期待も 世界のどこに投資する?(4)中国・後編

2017/7/13

UOBケイヒェン証券のスティーブン・リョン氏(写真左)とHSBCグループのジュリア・ワン氏(写真右)

 足元の世界市場では中国経済のリスクは米欧の陰に隠れ、あまり意識されていない。実際、前回「中国、景気指標はほぼ良好 住宅バブル崩壊は懸念も」で見たように各種経済指標は良好だ。だが、住宅価格は上昇を続けており、不動産バブルを中心としたハードランディングの懸念はくすぶっている。中国経済は6%台後半の安定的な成長を維持できるのか。こうした中で光る中国株投資戦略はどんなものか。今回は、中国本土と世界の玄関口として独自の地位を築いてきた香港の専門家2人に話を聞いた。

■年末に向け上昇、金融部門が狙い目

UOBケイヒェン証券 エグゼクティブ・ディレクター スティーブン・リョン氏

 まず1人目は日本の大手証券で勤務したこともあり、中国株に詳しいUOBケイヒェン証券のスティーブン・リョン氏(エグゼクティブ・ディレクター)だ。

――中国の実質GDP(国内総生産)成長率の見通しは。

 「2017年の中国のGDP成長率は6.3%を予想する(16年は6.7%)。市場の平均予想よりは低い値だ。政府は不動産市場への規制を強化し、北京、上海などの大規模都市だけでなく、中規模都市での取引も抑制していく。さらに金融規制を強化し、金利も引き上げる。一方では自動車の販売が減少しており、工業の付加価値や小売売上高の成長は減速していくだろう。年内に中国経済がハードランディングする可能性は低いが、政府は金融市場のリスクを押さえ込みに入る可能性が高い。政府債務の利払いがもし難しくなれば、インフレや人民元切り下げのリスクが高くなるからだ。これらのリスクについては年内でも考慮に入れておく必要がある」

――では中国の株価指数はあまり上昇しないとみるのか。

 「しばらくは横ばい圏だろうが、10~12月期に上昇するというのがメインシナリオだ。今秋には中国の共産党大会がある。習近平国家主席(共産党総書記)はこの大会で次の5年間の主導権を得る見通しで、共産党大会を無事に通過すれば市場は経済改革の加速を見込むだろう。株価指数の上海総合指数は12月に3600程度、香港ハンセン指数は2万8000程度まで、それぞれ上昇余地があるとみる(7月11日時点では3203、2万5878)」

――習政権が続投すれば中国経済は盤石なのか。

 「改革が今後も進捗していくかどうかは見方が分かれる。楽観論に立てば、長期間、腰を据えて改革に取り組めることになる。強いリーダーのもとで改革も進むはずだ、との見解がある。一方、悲観論者から見ると、中央集権的な体制の強化により外部からのチェック機能が働かなくなり、誤った政策を正すことが困難になる。仮に習政権が18年以降、市場経済より計画経済を重視し、改革が停滞するようであれば、政府は信頼を失い、中国の富裕層は金融資産を国外に移すだろう」

――投資するなら、どの部門の中国株が魅力的か。

 「18年の中国経済は良好とみており、金融部門、特に保険や銀行の株価は上昇するだろう。共産党大会後に金利が上昇したとしても、不動産開発業者の収益環境はなお良さそうだ。消費の拡大を受け、高級車を扱う自動車業界も成長が続きそうだ。広域経済圏構想の『一帯一路』政策を受け、インフラ関連銘柄も注目に値する。共産党大会への期待はある程度織り込んでいるが、今は焦ることはない。7~9月期で下がるタイミングを待ち、安値で拾えばよい」

■過剰生産の削減進み、サービス業伸びる

 もう1人の専門家が、HSBCグループで中国圏経済の動向に目を凝らすジュリア・ワン氏(グレーターチャイナ担当エコノミスト)だ。

――中国では以前から鉄鋼や電力などの過剰生産問題が取り沙汰されている。国有企業の改革は進むのか。

中国内の鋼材需要は伸び悩みつつある=ゲッティ共同

 「中国では昨年(16年)、工業生産能力の削減がかなり進んだ。石炭設備の生産能力については当初計画よりも5000万トン多い3億トンを削減した。同様に向こう3~5年間で、政府は全生産能力の9%に当たる5億トンを段階的に廃止し、さらに5億トンを事業の再構築により削減する方針だ。鉄鋼に関しては、向こう5年間で全生産能力の9~13%に相当する1億~1億5000万トンの削減を表明した。生産のペースは減速しており、目先の成長の重荷にはなるが、これらの削減により製造業部門は緩やかに回復するだろう」

――国有企業が過剰な借り入れをしているとの見方もある。実際はどうか。

 「中国の国有企業は中国経済で最も借り入れの大きい部門だ。全体経済の約半分、全企業部門では約70%に達する。一方、中国経済に貢献する比率はここ数年低下してきており、経済生産高の3分の1未満、都市部雇用の20%未満にとどまる。経済成長に70%以上貢献しているものの、全企業部門の30%しか借り入れがない民間企業とは対照的だ。こうした状況には2つの示唆(インプリケーション)がある。すなわち、利益の出ない国有企業のリストラは、効率化、システマティックリスクの減少につながる。そして政府がマクロ経済政策をさらに展開すれば、民間企業の安定運営に役立つ」

――民間企業の利益環境はどうなっているのか。

HSBCグループ グレーターチャイナ担当エコノミスト ジュリア・ワン氏

 「工業の利益成長は16年から、早いペースの回復段階に入った。製造業部門で広範囲な回復が始まったとみている。外部需要(輸出)は緩やかに改善しており、製造業の品質向上や都市化により、内需拡大も加速する。製造業部門は17年も引き続き回復が見込める」

――今後、中国の産業構造はどのように変わるのか。

 「サービス産業が中国の経済成長にとって急速に重要になってきている。17年1~3月期で見れば、第3次産業が全体の56%を占めており、ここ数年、第3次産業の成長率は全体経済の成長率を上回っている。教育から観光、娯楽まで、中国の中間層の成長は企業に対しより多くの機会を与え、改革のペースも速い。長期で見れば、都市化や人口構造の変化がサービス業により多くの機会を与えるだろう」

――政府にとって必要な政策は何か。

 「中国には都市化、バリューチェーン(価値連鎖)の向上を通じて中期的な経済成長を続ける潜在力がある。1人当たりGDPは8000ドル程度でまだ途上国並みだが、生産性向上の可能性は高い。中国の政策当局者は戸口(日本の戸籍に相当)登記管理制度や財政改革などの改革を推し進めるべきだ。また先進国との生産性格差を埋めるため、外国人投資家がビジネスをうまくできるよう支援すべきだ」

 「なお政府は今後、金融規制は慎重に進めるだろう。政策当局者はこれまで金融システムのリスク軽減に動いてきた。規制強化を早めてしまえば、経済成長への影響が出かねないと認識しているからだ」

◇  ◇  ◇

 日本国内にいると、中国経済は減速傾向が鮮明で、いつハードランディングするか分からないと見られがちだ。実際、日本にいるエコノミストの間では住宅価格バブルの崩壊を懸念する声も目立つ。ただ今回、香港にいる2人の専門家の話を聞くと、習政権下で中国の構造改革は着実に進み、生産性は徐々に改善していくとの見方が主流だった。実際、石炭や鉄鋼の過剰生産は既に改善が進み、いわゆる「ゾンビ企業」の退出に向けた取り組みも進めている模様。政府当局も金融面のシステマティックリスクを回避しようと敏感になっている様子が見て取れる。1人当たりGDPは8000ドル規模で、先進国入りの水準となる1万ドルまで成長余地はまだある。住宅価格の上昇が落ち着き、GDP成長率が6%台で中長期的に安定していけば、中国株に目を向ける機会を今より増やしてもいいかもしれない。

(マネー報道部 南毅)

マネー研究所新着記事

ALL CHANNEL