「僕なんか『仕事も生活もファッションのためにがんばってきた』という面がある。仕事着でも出会いを大切にしているんですよ。例えば、イタリアの『アルマーニ』の高いジャケット、はやりすたりの関係ない地味なネイビーのやつ。それに日本の平凡なブランドのパンツと、3年前くらいに買った、ちょっとよれっとしたTシャツを合わせる」
「すると、洋服がものすごく喜ぶんですよ。だって、これまで出合ったことのないもの同士が、『あんたアルマーニ! 光栄だわ、こんなところで』みたいな。上半身と下半身が同等の扱いで、服が『これはうれしいな。イタリア製と、俺が軽く見てたブランドと一体になっちゃって』とか言っている。初めて会った人たちがキャンプファイアをやってるみたいで、免疫力が上がる」
「スーツはひとつ間違うと、全部同じブランドになる。でも、リスクは伴うけれど格好悪くならない程度に違う素材や色味を合わせるとよい。こういうことを工夫して楽しんでいると、自分のカラダに変化が起きる。自分の内面も活性化されます。ファッションは外側から内側への刺激というか。胸元に塗るメントールみたいに爽快になる感じがある」
■装いを型にはめ込むな
「こういうことをいろいろと詰めていくと、サラリーマンもいい加減にダークスーツ一辺倒をやめた方がいい。クールビズもそう。30代も40代も50代もそろって、夏になった瞬間に右にならえで、急にアロハシャツ着たりして、おかしいでしょう。政治家は急にかりゆしウエアを着て。しまいにはかりゆしの上に紺のジャケットを着て。いいかげんにジャケットを脱げばいい。かりゆしは正装なんだから」
「デザイナーがもっとこの分野に着手してほしい。暑いフィリピンやパキスタンの正装とか、参考になるファッションはいっぱいあるんですよ。スタンドカラーだとか、そういうのをデフォルメしてお洒落にできるはずです」
「クールビスもアロハは着ても、Tシャツまでは着ない。なぜなのか。『襟がついていればいい』という問題なのか。Tシャツなのにフォーマルとか、そういう遊びがあっていい。みんな型にはめ込んでいますが、仕事着にもいろんなテーゼがあるはず。それぞれの工夫や愉悦があるはずなんですよ」
(聞き手は若杉敏也)
中編「ニュースがカジュアル化、だからタイは外さなかった 」、後編「装いは『人生の決算報告書』、心見透かす『内視鏡』」もあわせてお読みください。
「リーダーが語る 仕事の装い」は随時掲載です。
SUITS OF THE YEAR 2021
アフターコロナを見据え、チャレンジ精神に富んだ7人を表彰。情熱と創意工夫、明るく前向きに物事に取り組む姿勢が、スーツスタイルを一層引き立てる。