「課長を卒業したから部長は間違い」アサヒ会長アサヒグループHDの泉谷直木会長(中)

「今、自分がトップだが、私は絶対に彼らに改革しろなんていいません。自分はこっち行きたいけどどうだと。合意形成をした上で、やり方の相談をする。『良きに計らえ』で改革が進むなら、社長なんていらない。社長の最大の仕事は方向性を示すこと。でもいくらトップが頭で考えても実行できないから、優秀なスタッフを連れてきて、部下と共鳴しなければならない。私は、かつてその部下として機会をもらったから、今度は社員にそのチャンスをあげたい」

優秀だと思う人

――どのような人を評価しますか。アサヒの昇進・昇格のルールとはどんなものですか。

「昔から、人物・力量・実績というが、上にいけばいくほど人物の割合の比重が高くなる。『優秀』という定義は怪しいね。みんながいう優秀なやつは、いわばモグラたたきのチャンピオンなんです。もっぱら仕事は速い。でも私はあまり評価しない。私が思う『優秀』とは、しくみを知ろうとする人だ。2、3回モグラをたたいたら、どういうパターンでモグラが出てくるか、自分の服が汚れても下にもぐりこんで機械がどうなっているか観察できる人だ」

「何が違うか。経営者は、将来を予測できる力が必要だ。今起きていることをスピードが速くできても、将来を予測できない。しくみを分析できる人は、将来、次に何が起きるかがわかる。課題が起きたときに、一般化し、現場にもっていって擦り合わせて引き上げられる人材。これが経営者だ」

「昇格にも、よくある間違いがある。昇格には『卒業方式』と『入学方式』があるが、課長の仕事ができたから部長の仕事にするのが卒業方式。課長の仕事ができても、部長の能力がなければ絶対に引き上げないのが入学方式だ。私は入学方式を選ぶ」

「入学方式でやるには、人事制度にしっかりした基準がないとできない。しかし、日本の多くの企業は人に仕事がついてくるケースが多いので、ここが甘い。人を成長させるのに重要なのは、研修方法よりも人事・賃金制度だ。会社の経営目標があり、戦略があって、実行するための能力の体系こそ、人事制度だ。だから、そのシステムがしっかりしていれば業績もあがるはず。この制度が曖昧だから、若い世代が成長したくてもどうキャリアを積めばいいかわからなくなる。人事制度がしっかりしていれば、それこそがキャリア開発マップになるはずだ」

「正直、当社も甘いところがある。改善の余地はある。職能等級資格制度など様々な制度があるが、本来は、年齢に関係なく等級を明確に示し、給与に連動させる。そうすべきだ」

泉谷直木
1972年京都産業大法卒、アサヒビール入社。95年広報部長、2003年取締役、10年社長。11年発足のアサヒグループホールディングスの初代社長に就任。16年、会長に就任。68歳

(松本千恵)

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