不眠症に効果アリ? 癒やしの壁に挑む「睡眠アプリ」

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/7/25
ナショナルジオグラフィック日本版

(イラスト:三島由美子)

今回は睡眠アプリ開発の苦労話をしたい。

睡眠アプリは文字通り睡眠に関する情報や快眠スキルを与えてくれるソフトのことで、スマホ用アプリだけでもかなりある。

睡眠の質を測定できる、睡眠サイクルを最適にして起きやすくなる、睡眠リズムを整える、イビキの測定など機能もさまざまだ。科学的にかなり怪しいアプリも少なからず含まれているが、結構人気があるらしく、何十匹目かのドジョウを狙って私の所にも睡眠アプリの共同開発の話が時折舞い込んでくる。

それはさておき、今回取り上げるのはそのような怪しげなモノではなく、医学的に確立されている治療理論に基づいた不眠症用の認知行動療法アプリである。

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)は、うつ病、不眠症、パニック障害、薬物依存、摂食障害などさまざまな精神疾患に効果があり、不眠症用のCBTは for Insomnia を付けてCBT-Iと呼ぶ。ただし十分な効果を出すには、治療者側にも相当の知識、訓練、経験が必要である。

医師や臨床心理士など医学知識のある人間でも一人前になるのに苦労するのに、果たしてアプリにCBT-Iができるのか?

そのような疑問を持たれる方も多いと思うが、まだまだ改善の余地はあるとはいえ、国内外のCBT-Iの専門家がしのぎを削って開発に取り組んでおり、かなりデキのよいものが登場している。

不眠だけではなく抑うつ症状の改善も

例えば英国のグループによって開発された有名なアプリ(Sleepio)は、不眠症の患者さんを対象にした臨床試験でとても良い成績を収めている。寝付きにかかる時間や夜中の目覚め時間が約60%も短くなり、結果的に日中の体調も大幅に改善したという。これは熟達した治療者ほどではないが、標準的な治療者のCBT-Iや睡眠薬と同等の効果である。

オーストラリアで開発されたアプリもなかなかパワーがある。不眠に悩む人を対象に効果を試したところ、不眠だけではなく抑うつ症状の改善も認められている。慢性不眠はうつ病に先立って出現することが多く、よく眠ることでうつ病の発症リスクを抑えることもできる。そのため、将来的にはうつ病の予防プログラムにCBT-Iアプリを利用できるかもしれないと期待されている。

これら試験は公的機関に登録され、厳密な手順を踏んで行われており結果の信頼性が高い。ただし、残念ながらSleepioもオーストラリアのアプリも日本語版はなく、日本人でも効果が出るかは未知数ではある。

ナショジオメルマガ