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カリスマの直言

陰る政権と日本株 浮揚させるのはAI戦略(藤田勉) 一橋大学大学院客員教授

2017/7/17

安倍晋三首相は「経済第一」に回帰できるのか(写真は都議選候補者の応援演説、1日、東京都千代田区)
「安倍内閣の支持率急落は、株価にとってマイナス要因だ。しかし、政権が危機感をバネに成長戦略を実行すれば、長期的にはプラス要因になり得る」

 東京都議選での自民党の惨敗や内閣支持率の急落など、安倍晋三政権が困難に直面している。政権に陰りが見られることは、常識的には株価にとってマイナス要因だ。しかし、長期的にはプラス要因になることもあり得る。それは政権が危機感をバネに「経済第一」に回帰し、成長戦略を実行できるかにかかっている。

 「政界は、一寸先は闇」という格言がある。過去、圧倒的に高い支持率を誇った政権でも、いったん支持率が大きく下がると元に戻らず、政権は長続きしないことが多い。例として、細川護熙、橋本龍太郎、鳩山由紀夫の各政権、そして第1次安倍政権がある。過去の例にならうと、今回の第2次安倍政権も厳しいと考えられる。

■支持率回復のカギは「経済第一」への回帰

 ところが、急落した支持率を大きく回復させた首相が1人だけいる。それは小泉純一郎氏である。2002年1月に、小泉首相は田中真紀子外相を更迭した。その結果、内閣支持率は79%から6月には39%に急落した(NHK調査)。しかし、9月に北朝鮮訪問を実現し、11月には支持率は68%まで戻った。つまり、歴史の教訓からは、安倍政権はサプライズを起こせるかが、長期政権持続のカギになると考えられる。

 それでは、安倍政権が起こしうるサプライズとは何か。北方領土交渉解決や北朝鮮拉致問題進展などが考えられるが、相手のあることであり、これらの実現のハードルは極めて高い。

 筆者は、安倍政権の内閣支持率の回復の王道は、政治的に大きなエネルギーを必要とする憲法改正をあきらめ、再度、「経済第一」に回帰することであると考える。12年の第2次安倍政権発足後、日経平均株価は8000円台から2万円台まで上昇したが、アベノミクスというサプライズが株価上昇の主因の一つであったことは間違いない。

 もともと第2次安倍政権は「経済第一」を貫いてきた。しかし、突如として20年憲法改正を打ち出し、政策の第一目標は事実上、経済ではなくなった。支持率急落に直面した安倍政権は原点に回帰するしかないだろう。

内閣改造で大物を起用できるか

 まず、注目されるのは内閣改造である。あくまで例えにすぎないが、竹中平蔵氏ら経済政策で実績を持つ大物を起用することが期待される。特に、安倍政権では小泉政権時代に重要性の高かった経済財政諮問会議はすっかり影が薄い。首相直轄の組織である経済財政諮問会議を活性化し、大物による強いリーダーシップでマクロ経済運営の長期的な戦略を明示することが重要である。

 問題は経済を本格的に回復させることができるような政策はあるのか、ということである。これまでアベノミクスの中核であった日銀の金融緩和は限界が見えている。「黒田バズーカ」開始後、4年以上経過したが、インフレ率はゼロ%前後で推移し、目標の2%には遠く及ばない。財政政策については、消費税増税を延期しているだけに財政赤字を大きく増加させて景気を刺激することはできまい。

■政権は成長戦略に取り組む以外、道はない

 よって、安倍政権はアベノミクス第3の矢である成長戦略に真剣に取り組むしかない。政府の成長戦略を決める組織である未来投資会議は「未来投資戦略2017」を策定した。これは政府として初めて、人工知能(AI)、ビッグデータ、あらゆるモノがネットにつながるIoT、金融とIT(情報技術)が融合したフィンテックなどの育成・活用を掲げている。

 今年6月末まで過去10年間の株価騰落率は、米国のプラス61%(S&P500種)に対し、日本はマイナス9%(TOPIX=東証株価指数)にとどまる。07~16年の年平均経済成長率は、米国が1.3%、日本が0.5%と株価格差ほどには成長率に差はない。つまり、株価上昇率の差をマクロ要因で説明することは困難である。

 長期的には、株価上昇率は主にミクロ要因で説明できる。それは、株式投資とは、その国に投資しているのではなく、企業の発行する株式に投資するものだからである。

 日本株が低迷している最大の原因は、日本ではハイテクの成長株が少ないからである。米国の時価総額上位5社は、アップル、アルファベット(グーグルの持ち株会社)、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックと、ITの成長企業である。一方で、日本の時価総額上位は、トヨタ自動車を除くと、NTTや日本郵政など元国営企業やメガバンクで占められている。

■日本でも世界で活躍するハイテク企業

 しかし、日本でも産業構造の変化が起きている。総合電機、家電などが低迷する一方で、AI革命において世界で活躍できる企業が増えてきた。ソフトバンクグループは、積極的な企業買収や投資ファンド設立で17年3月期の連結純利益が1兆円を超えた。キーエンス、日本電産、村田製作所などデバイスメーカーは、いずれも各分野で世界トップクラスの市場シェアを持つ。拡張現実(AR)などで世界をリードするソニー、任天堂の株価は急上昇している。NTTドコモは第5世代移動体通信技術の世界的なリーダーである。

 このように、日本でも世界で活躍するハイテク企業が台頭してきた。今後、これらが時価総額上位企業となって、日本株上昇をけん引していくことであろう。結論として、前述した成長戦略としてのAI戦略の実行こそが、安倍政権と日本株を浮揚させる唯一無二の手段なのである。

藤田勉
 一橋大学大学院客員教授、シティグループ証券顧問、SBI大学院大学金融研究所所長。2010年まで日経ヴェリタスアナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。経済産業省企業価値研究会委員、内閣官房経済部市場動向研究会委員、北京大学日本研究センター特約研究員、慶応義塾大学講師を歴任。一橋大学大学院修了、経営法博士。1960年生まれ。

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