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「関ケ原」前後の城に注目 大河ドラマに誘われて 「おんな城主 直虎」時代考証家、小和田哲男氏の5選

2017/7/11 日本経済新聞 夕刊

姫路城。外観は五重、内部は地下1階、地上6階の大天守

 大河ドラマ「おんな城主 直虎」の影響か、戦国時代から江戸時代初期の城が人気だ。関ケ原合戦と前後して建った城の建築方法や狙いを知るだけで、名城探訪が楽しくなる。現在、残る城はごく一部だが、おんな城主 直虎の時代考証をした小和田哲男さんに見るべき5名城を厳選してもらった。

 ◇   ◇   ◇

 1つ目は、島根県安来市にある月山富田城。いきなり天守のない城となったが、「戦国期の山城の特徴と近世の城の特徴が1カ所で見られる、貴重な城」と小和田さんは説明する。

難攻不落の要塞城といわれた月山富田城の石垣

 月山富田城は戦国時代に尼子氏の拠点だった山城で、関ケ原の合戦後、堀尾氏が入城し、改修した。山城は山の上に築くことで、敵に対する防御力を高めた戦国時代の城だが、月山富田城跡に残っている石垣には、戦国期の山城らしさと、堀尾氏が後から加えた近世の城らしさの両方が見られるという。

■堅守の彦根城 城下町も注目

変化に富む三層の天守は国宝に指定

 2つ目は、「おんな城主 直虎」で注目を集める井伊家の彦根城。この城は天下普請で建てられたのが大きな特徴。天下普請とは、江戸幕府が諸大名に命令して工事をさせること。関ケ原の合戦で勝利に大きく貢献した井伊直政の子、直継の城だが、大坂城や西国ににらみを利かせる、幕府最前線の城であったことを意味する。

 防御の工夫など城の見どころは多い。その一つが天秤櫓(てんびんやぐら)と廊下橋。本丸に入るには廊下橋を渡って、天秤櫓の門をくぐらねばならないが、天秤櫓からは弓矢や鉄砲で攻撃できたし、いざとなれば廊下橋を落とすこともできた。

 政治拠点としても重要だった彦根城は、城の造りだけでなく城下町も興味深い。「城のすぐ周りを重臣クラス、その外側を足軽組屋敷、さらにその外側を職人や商人たちの町家が囲んだ近世の計画都市」

 また彦根城には、城主が暮らしていた表御殿も復元されているので、藩主やお付きの者がどのような暮らしをしていたかを想像するのも楽しい。城主は天守で暮らしていたと思いがちだが、それは誤解。通常、城主は単層階の御殿に住んでいた。天守は籠城時の最後の砦(とりで)、あるいは追い詰められた際の切腹の場だった。小和田さんは「唯一天守に畳を敷いて暮らしたとされるのが、安土城を築いた織田信長」と説明する。

■白亜の姫路城 実用の家康系

 3つ目は姫路城。徳川家康の娘婿である池田輝政が築城した。姫路城も彦根城と同様、大坂城をにらみ、西国を封じるための幕府の拠点となった城だ。

 実は、姫路城が築かれた関ケ原の合戦後は、全国的な築城ブームの真っただなか。「関ケ原の後、大名たちは新たな領地を与えられた。城を造るのは大名の夢。一躍、築城ブームが起こった。城は領民たちや敵に威厳を示す、見せる城となった」そのなかでも姫路城には「特別な威圧感があり、見る者をひれ伏させる迫力がある」と、小和田さんは評価する。

 姫路城は2年前のリニューアルで、壁が真っ白になり話題だが、全国の城には白い城と黒い城の2系統があることをご存じだろうか。実は白い城は家康系、黒い城は秀吉系なのである。「黄金太閤といわれた秀吉は、金箔瓦が映える黒い壁を好んだ。家康は実用派で、防火・防水効果のある白いしっくいを好んだ。姫路城も江戸城も白。一方、松本城や熊本城は黒で秀吉系といえる」

 その黒い城の代表格が4つ目のお薦め、松本城。「低湿地に造ったため、石垣が高過ぎると重みで地盤沈下する。天守も低くするなど地盤を考慮して造ったことがよく分かる。また、江戸時代に追加された月見櫓は、平和な時代の城の一つのあり方を見せてくれる」

黒と白とのコントラストがアルプスの山々に映える松本城
熊本地震で現在は改修中の熊本城

 そして最後が熊本城。この城も秀吉系の黒だ。築城名人といわれた加藤清正が築いた城で、上部が急勾配になる「扇の勾配」といわれる独特の曲線の石垣が見どころの一つ。この工夫により鉄壁の防御力を誇った。「昨年4月の熊本地震で、熊本城の石垣や建物は大きな被害を受けたが、清正の時代に築かれた石垣部分のほとんどは揺れに耐えたという」と小和田さん。

 関ケ原後に築かれたにもかかわらず、実戦的な造りになっているのも特徴。籠城して戦い続けられるよう、城内には120もの井戸が掘られている。また、本丸御殿の上段に設けられた「昭君之間」は、豊臣秀頼を迎えるための間だったという説もある。「いつか秀頼を迎え入れ、徳川と一戦を交えるつもりだったのでは」と、小和田さんは話す。

(日経おとなのOFF7月号から再構成 文・柳本 操 写真はPIXTA)

[日本経済新聞夕刊2017年7月8日付]

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