年金・老後

定年楽園への扉

老後の不安、出世した人ほどなぜ大きい? 経済コラムニスト 大江英樹

2017/7/27

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 私は仕事柄、様々な企業で50歳代前半の社員の方を対象としたセミナーの講師をすることが多くあります。いわゆる「ライフプランセミナー」と呼ばれるもので、企業によっては単にレクチャーを聞くだけではなく、グループに分かれて自分の思い描く老後のライフプランを話し合うプログラムを実施しているところもあります。

 グループ分けについては無作為にやる場合もありますが、多くは役職の似た人たちを一緒にすることが多いようです。例えば、部長は部長同士、課長は課長同士、一般社員は一般社員同士といったような具合です。そのほうが経済的にも似通っているので、将来に向けた議論がより深まると想定されるからです。

■仕事を離れて付き合える人脈がない

 各グループの話し合いを聞いていると、とても興味深いことがあります。それは会社の中での地位が高い人ほど、老後に対して大きな不安を持っているということです。一般的に考えれば、役員や部長、支店長といった職責を経験した人は、それなりの処遇で金銭的な余裕もあるでしょう。人的なネットワークも一般社員に比べたら格段に豊富なはずなのに、一体どうしてそうなるのでしょうか?

 まず、部長クラス以上のグループの議論は盛り上がりません。「定年になったら一体何をやればいいんだ」「それほど蓄えもないし、退職金ってどれぐらいもらえるんだろう」――。話し合いの内容はそんな愚痴ばかりです。どこまで本音なのか分からない部分もありますが、こうした人たちの中には、高い報酬をもらっていた割にあまり蓄えがない人がいるのは事実です。公的年金どころか企業年金の制度についてもよく知らない人が結構います。また、仕事上のネットワークはあっても、仕事を離れて付き合える人脈を持っていない人も多いのです。

 これに対して、一般社員の議論は楽しそうです。「早く会社を辞めて今やっている趣味の活動を広げたい」「今は会社勤めなのでできないけど、ボランティア活動を積極的にやりたい」――。会話からは定年を待ち焦がれている感じがよく伝わってきます。どう見ても充実しているのです。一般社員は金銭的な面でも実にしっかりしています。若い頃からコツコツと資産形成をしている人も多く、日本年金機構から毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」で自分の年金額をしっかり把握している人も少なからずいます。

 両者の違いは何かというと、私は「自立意識」ではないかと思います。確かに地位が高い人は組織の中で頑張ってきたことでしょう。こうした人たちは会社のために働き、売り上げに貢献することで高い地位を得ることを行動規範にしてきた人です。まず会社、組織が自分の人生の中で最重要だったわけです。

 退職によってそれがなくなったときに、何をしていいかわからないという不安が頭をもたげてくるのは当然です。換言すると、真に自立するということの意味を分かっていなかったということなのです。これを会社に寄りかかってきた甘えだというのは簡単ですが、多かれ少なかれ誰にでもそういう部分はあります。

■自立意識を持って人生プランを考える

 早々に出世レースから外れた人は、人生の軸を早くから「自分や家族」に置いてきたからこそ、定年を前にしても不安があまりないのだろうと思います。会社員としてどちらがいいのかは一概にいえませんが、一つだけはっきりしていることは、いつまでも会社に居続けることはできないということです。生涯現役のオーナー経営者でない限り、どれほど偉くなってもいつかは会社を離れざるを得ません。そうなったら会社員時代の地位は何の関係もありません。

 高い地位にある人ほど、定年によって感じる喪失感が大きいものです。この現実を知り、50歳代からは自立意識を持って、老後のお金を含めた自分なりの人生プランをしっかりと考えておくべきでしょう。

「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は8月10日付の予定です。
大江英樹
 野村証券で確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。著書に「定年男子 定年女子 45歳から始める「金持ち老後」入門!」(共著、日経BP)など。http://www.officelibertas.co.jp/

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