通訳ガイドは自ら楽しめ 自己流ツアーでつかんだ極意訪日旅行ベンチャー、ノットワールドの佐々木文人社長に聞く(2)

――そうした経験から、お客さんに満足してもらうために必要なことも見えてきたのですね。

「『説明する』ことよりも、ゲストに『楽しんでもらう』ことを第一に考える必要があります。当時は今のように体系化できていたわけではありませんが、『ガイド自身がツアーを楽しんでいるか』『ゲストに新しい気づきを与えられているか』『ツアーに参加している人間同士のコミュニケーションをプロデュースできているか』の3点がカギを握ると考えています」

「ガイド自身がツアーを楽しんでいるかどうか」を重視すると話す佐々木社長

――ガイド自身がツアーを楽しんでいるかどうかというのは、興味深い着眼点ですね。

「少人数のツアーでは、ガイドの感情がゲストの感情に大きく影響します。どれだけ詳しく場所や食べ物の説明をしてくれても、ガイドが不機嫌だったり、緊張してガチガチだったりすると、ゲストはツアーを楽しむことができません」

「ツアーが3時間半程度だとして、最初の10~15分がそのツアーのすべてを決めるといっても過言ではありません。ゲストの満足度が高いガイドは、ここがとてもうまいのです。ガイド自身がツアーを楽しんでいて、笑顔でテンションが高いので、その熱量が自然にゲストに伝染するのだと思います。こちらが笑顔だと、向こうも自然と笑顔になります。とてもリラックスしてツアーを楽しめるのだと思います」

――具体的な事例で示してもらえますか。

「ある雨の日のツアーで、こんなことがありました。あるガイドは胸を張って歩き、『今日は雨だけど良かったね。こんなにすいていて歩きやすいなんてラッキーだよ』と言いながら案内していました。別のガイドは雨で寒かったからか、口数が少なくなり、ポケットに手を入れて背中をかがめて案内しました。ゲストも話しかけづらい様子で、同じように背中をかがめて後をついていくだけ、という状況でした。どちらが楽しいツアーだったかは言うまでもないでしょう」

通訳ガイドの規制緩和はチャンス

――規制緩和により17年度中には、通訳案内士の国家資格を持っていなくても有償で通訳ガイドができるようになります。これは商機の拡大につながりますか。

「競合相手が増えるリスクはありますが、基本的にはビジネスチャンスになると考えています。背景には、ガイドの多様性があります。国家資格を持っていなくても魅力的な人材は大勢いますから、そうした方々と協業することで、もっとゲストに楽しんでもらうことができると考えています。お笑い芸人だったり、地元の名物おばちゃんだったり、そんな人たちがガイドするのも面白いと思います」

――旅行業界の中には、通訳ガイドの質が下がるという懸念もあるようですね。

「国家資格がない人でもガイドができることになり、品質のばらつきは大きくなります。だからこそ品質の担保という価値が重視されると思います。当社では高いレベルでサービスの質を維持するため、主なツアーについてはマニュアルを整備するとともに、定期的に見直しをしています。ガイドの育成に当たっても、かなり入念な指導をしています。まず研修を受けてもらったうえで、実際に当社のツアーに同行してもらい、雰囲気を知ってもらいます。その後、実際にガイド自身にツアーを催行してもらいますが、私を含むスタッフが同行して内容をチェックし、終わった後に良かった点や改善が必要な点を本人にフィードバックします。1回目の同行でOKが出る人はほんの数人で、ほとんどは複数回、複数のスタッフの目でチェックしています」

――次回(「大衆居酒屋でプライスレス体験 日本人と肩くみ乾杯!」)はゲストが満足するツアーについて、さらに掘り下げていきたいと思います。

佐々木文人
1983年生まれ。東大経卒、損害保険ジャパン(現損害保険ジャパン日本興亜)を経て、ボストン・コンサルティング・グループ入社。4年間の在職中に企業の新規事業開発・営業改革のプロジェクトなどを手掛ける。結婚後に退職し、1年間の世界一周新婚旅行を経て、2014年2月にノットワールドを設立、代表取締役に就任。
藤田耕司
1978年生まれ。公認会計士、税理士、心理カウンセラー。早大商卒。監査法人トーマツを経て日本経営心理士協会、FSG税理士事務所、FSGマネジメントを設立。経営コンサルティングと心理学を融合した経営心理学を体系化し、企業の経営顧問、経営者のメンターを務める。主な著書に「リーダーのための経営心理学」(日本経済新聞出版社)がある。

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