退職後の資産運用 金融機関にも自分にも惑わされず『投資の鉄人』座談会から(4)

銀行は堅実な金融商品を持ってきてくれると思い込んでいる個人が多いという(撮影・新木宏尚)
銀行は堅実な金融商品を持ってきてくれると思い込んでいる個人が多いという(撮影・新木宏尚)

書籍『投資の鉄人』(日本経済新聞出版社)から著者4人の座談会部分を転載して、個人投資家の陥りがちな罠を解説するミニ連載もこれで最終回。過去3回の記事へのリンクは巻末に用意しました。

さて会社員の場合、人生でもっともまとまったお金が入るタイミングとして定年退職時があります。退職金をまとめて一度に投資するのは非常に危険です。退職後の資産運用をどう考えるべきかや積立投資のメリットなどを、著者4人が深掘りします。

積み立てが最もすぐれている点

――積立投資は(株の)ナンピン買いと似ている面があるようにも思うのですが……。どうでしょうか。

岡本 ナンピン買いとは違いますよ。ナンピン買いというのは、価格の動きに左右される売買手法だけれども、積立投資というのは、定期的に定額で買っていくという方法ですから。株価が上がっているから買うのをやめるとか、下がっているから買い増すということではありません。結果としてナンピン買いのようになることはあるかもしれませんが、別にそれは狙ってやっているわけではない。そこはかなり違います。

積立投資に関してはいろいろな議論があり、論文などがたくさん出ていたりしますが、私は十分に意味があると思っています。すごく長期で見れば、世界の株式市場は基本的に上がっています。だから、結果から見れば、投資を始めてすぐに全額を投入すればいいのです。積立投資はある意味、そのときに投資可能な全額を一度に投入しているわけです。毎月ごとに見れば常にフルインベストメントです。

馬渕 若いうちは働いていても年収がそれほどなく、そこからいくらかを毎月投資に割り当てるという場合、必然的に積立投資になるんですね。ただ、現金が手元にすでにたっぷりある場合は、そこから少しずつ積み立てていくと、全額を投資するのに時間がかかってしまいます。相場が右肩上がりであれば、全額が投入されるのを待つ間に株価が上がってしまいますから、最初からボーンと入れたほうが良いでしょう、とは言えますね。

大江英樹さん

大江 投資手法として、積立投資が一番すぐれた方法かと言われると、必ずしもそうではないんです。ただ、積立投資が良い理由というのは、私は2つあると思っています。

1つは、高くなったら買いたくなり安くなったら売りたくなるという心理的なゆらぎとは無縁のところで、投資を続けていけるということ。もう1つは、メンタルアカウンティング(心の会計)で、給料から天引きされて買ったものは自分のお金ではない、という感覚になります。自分のものではないお金が、知らないところで自動的に増えていく。そういう意味で、積立投資は心理的に非常に有効な方法だと言えると思います。

ただ、積立投資と一括投資のどちらが良いのかという話ですと、どちらも一長一短です。こちらのほうがすぐれているということは、投資手法的にはないと思いますけどね。

岡本 ふつうのサラリーマンだと、そんなにまとまったお金ってありませんから、月給の一部を積み立てて投資をしていくことになると思います。要するに、積立投資しかないんですよね。それは結局、先ほど言ったように、小さいながらも月々の投資可能額全額を一括投資しているわけです。でも、たとえば、退職金で何千万かまとまって入ってきて、どう投資しましょうかというときの選択肢として、一括でドカンといくのが良いのか、2年くらいかけて細かく分けて買ったほうが良いのか、これは、その人の投資の習熟度、どれくらいきちんと自分をコントロールしながらできるかという点によると思います。

竹川 積立投資は、生活の中に組み入れやすいというのが一番のメリットだと思います。お給料が入ったら一部を投資に、と仕組み化できます。たとえば、転職して退職金が800万円入ってきたときは一括で投資するという選択肢もありますが、投資をまったくしたことがない場合は一部にとどめておいたほうが良いのではないでしょうか。しかも、みなさん、相場が良いときに始めたがるものです。そのあと価格が下がると、あせって投資をやめてしまい、二度と投資はしたくないという方も多いのです。それはすごくもったいない。ですから、まとまったお金を入れるのであれば、きちんと勉強して、上がる方向だけを見るのではなく、どれくらいまでなら下がっても精神的にも経済的にも耐えられるか、その辺りを考えてから始めたほうが良いと思います。

大江 いわゆるリスク耐性ですね。どれくらいまでなら耐えられるか。

竹川 精神的なリスク耐性は人それぞれだと思いますが、経済的な部分に関しては、2回目の座談会「自分に合った投資 長く続けるには『まず資産を把握』」で紹介した損益計算書を作っておくと参考になります。たとえば、年間100万円を貯蓄できる人なら、一時的に100万円下がったとしても、100万円がその年に新たな資金として追加投入されるわけですから、金融資産全体で考えると減ることはないわけです。そんな感じでイメージを持っておくと良いでしょう。

退職前に必ずやっておきたいこと

――(書籍の)第4章で、退職金をもらって一度に投資するのは危ない、というお話がありましたが、投資経験がない人はどうするのがいいのでしょうか。

竹川 私はとりあえず、目の前から消すことをおすすめします。すぐに必要ではないお金だったら、ひとまず定期預金などに入れて目の前から消して、冷静に考える。ふつうの会社員だと、たとえば2000万円というまとまった資金が入ってくることは相続以外ではなかなかありません。気持ちがたかぶって、妙なことをしたくなってしまう人も多い。たとえば、意味のないリフォームをしたり、変な金融商品を買ってしまったり。

もう1つは、投資を始める前に、企業の退職一時金以外に公的年金や企業年金が何歳からいくらもらえるのかという「入ってくるお金」の整理、そして、生活費などがどれくらいかかりそうかという「出ていくお金の見通し」を立てること。つまり、リタイア後の生活を設計することが先だと思います。

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