化粧品を選ぶように温泉を選ぶ! 温泉美容の基礎知識
キレイになれる温泉の秘密
温泉は地球がくれた天然のビューティーツールです。地球は生きていて、その自然の営みの中で湧き出てくる温泉には、その土地の地層にあるミネラルや成分がたっぷりと溶け込んでいます。
日本には47都道府県の全てに、およそ3000カ所の温泉地があります。登録されている源泉数はおよそ2万8000本。日本全国を旅すると2万8000通りの温泉に出合えるというわけです。トラベルジャーナリストで温泉と美容の専門家である石井宏子さんが、肌や体、心のさまざまな悩みや願望にこたえてくれる温泉や温泉宿、温泉地の情報を連載で紹介していきます。
温泉の美容効果は「泉質」で分かる!
美しくなるために使う化粧品は、どんな成分が入っているのか、どんな違いがあるのかなどをいつも気にして選んでいるのに、温泉に入るときにどんな温泉なのかを知らないなんてもったいない。まずは温泉の成分と、美容に期待できる効果についてお話しします。
温泉に溶け込んでいる成分のバランスは、個々の温泉ごとに全て異なりますが、メインの成分を知る方法があります。それは、温泉場の入り口や脱衣所などによく掲示されている「温泉分析書」に書かれている「泉質」をチェックすること。その温泉の主成分や副成分を表すのが泉質表示です。
泉質名は、「単純温泉」のように1つだけのものもあれば、「含硫黄・含鉄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素泉」のように、主成分・副成分の順番で複数の泉質名が並ぶ長いものもあります。これは、1つの成分のシェアが高い「集中美容液」のようなタイプか、複数の成分が合わせ技で働く「マルチビタミン」のようなタイプかということですので、それぞれの温泉の個性の違いも併せて楽しみましょう。
化粧品を選ぶように温泉を泉質で選ぶ
泉質は全部で10種類あります。泉質名は主成分・副成分が並んで表示されるので、そこから温泉の特徴を知ることができます。まずは、美肌に欠かせない3大美人泉質「炭酸水素塩泉」「硫酸塩泉」「硫黄泉」を中心に選んでみてはいかがでしょうか。
【1.すべすべ美肌の湯】
スキンケアの始めに使うものといえば、クレンジングやせっけんですね。温泉にもせっけんのように肌の汚れや、肌表面の古い角質を落としてすべすべにしてくれる成分が多い泉質があります。それは「炭酸水素塩泉」。美肌の湯と呼ばれる温泉地に多く見られる泉質です。
「ナトリウム-炭酸水素塩泉」とあれば、重曹泉のこと。重曹というと、台所のお掃除に使ったり、山菜のアクを取りたいときに使ったりします。つまり、肌の汚れや角質を優しく落とすサポートをしてくれるのです。肌の表面がすべすべになるのを実感できるうれしい温泉の働きですね。ちなみにpH8.5以上の「アルカリ性の温泉」も同じような作用が期待できます。泉質は単純温泉でも美肌の湯と呼ばれてきた名湯は、アルカリ性や弱アルカリ性が多くみられます。
【2.しっとり美人の湯】
せっけんでキレイになったら、化粧水で保湿。シャンプーで洗ったらリンスでしっとり整えるのを日々当たり前のようにしているという方は、温泉の入り方の順番は気にかけていますか? 順番が違っても肌や体に悪いということはありませんが、美肌ケアのためには賢く使い分けていただきたいと思います。
仕上げの温泉として入りたい泉質が「硫酸塩泉」。水分を肌へと運び潤い肌をサポートするので、美人の湯と呼ばれる温泉地に多く見られます。日本最古の文献に記載されている美肌の湯といわれる玉造温泉もこの硫酸塩泉。1300年以上も前から、日本人は「一度入ると美人になる」という評判で温泉へ殺到していたというのですから、美人の湯の歴史は奥深いですね。古くから武将が傷を癒やしたといわれる温泉もこの硫酸塩泉や塩化物泉が多くみられます。肌の再生を促すには、しっとり保湿してくれる泉質が役立ったのだと想像できます。
「塩化物泉」も保温や保湿の温泉です。塩の成分は肌の上に「塩皮膜」となってベールのように覆うので、温まった熱を保ち、水分も閉じ込めて保温と保湿をサポートします。冷えは美容の大敵。あたため美容の仕上げにも塩化物泉が役立ちます。
【3.めぐり美人の湯】
美と健康には体の内側も整えておくことが大切ですね。いらないものをため込まないようにするには、血の巡りがポイントです。「硫黄泉」は毛細血管を拡張する作用があり、血行がよくなります。また、炭酸ガスを含む「二酸化炭素泉」も同様に血行促進作用が期待できる泉質です。血行がスムーズになるということは、いらないものを外へ出すだけでなく、美肌に必要な栄養や酸素も隅々まで運んでくれますので、硫黄を含む温泉に入ると肌本来の元気がよみがえり、ツヤツヤの輝きにうれしくなります。血の巡りがよくなると、体にたまった疲れやコリも流れやすくなっていきます。メタボ対策やダイエットなどが気になる方にもおすすめしたい温泉です。
スペシャル集中ケア向きの温泉も
美容には毎日の基本ケアが大切ですが、時にはしっかりとスペシャルケアをして美と健康に拍車をかけたいこともあります。同じように、単純温泉や硫酸塩泉のように毎日使いたい化粧水のような温泉と、集中ケア的に取り入れたい温泉があります。
例えば「酸性泉」(草津温泉、蔵王温泉など)に入ると、適度な刺激を与えて肌や体の活性化を促すことができます。体温と同じくらいのぬる湯でリラックスできる栃尾又温泉のような「放射能泉」は、じっくりと体や肌本来の元気を目覚めさせます。「濃厚硫黄泉」(万座温泉や月岡温泉など)で徹底的に全身の巡りをよくするとか、塩も鉄分も超濃厚な温泉(有馬温泉など)で普段は手が届かないような体の深部までしっかり温まるなど。そう、こうなってくると温泉は化粧品の枠を超えてサプリメントや栄養ドリンクのような存在になってきます。詳しくは今後のコラムでテーマ別にお伝えしていきたいと思います。
湯巡りは順番が大事
温泉は泉質によって美容への働きが違ってくることを知っていただくと、湯巡りするにも、どんな泉質の温泉をどんな順番で巡ればいいのかが分かってきます。
宿泊する温泉地に到着する前に別の泉質の温泉地に寄ったり、翌日に寄ってから帰ったりということも考えられます。さらに、温泉郷のように複数の泉質の温泉が集まっている場所や、ひとつの温泉地でも源泉によって泉質が違うところもあります。
例えば、東西の横綱と呼ばれる大分県の別府温泉郷と宮城県の鳴子温泉郷は、まるで温泉のデパートのように色、香り、感触、泉質が驚くほど違う温泉があちこちに湧いています。箱根温泉郷も箱根十七湯と呼ばれる温泉地が点在し、場所ごとに出合える泉質が変わるので、景色を観光しながら違う温泉を巡ると楽しみが倍増します。
箱根温泉郷を例にして湯巡りコースを説明してみましょう。
美肌磨きなら、最初にせっけんのような作用の「炭酸水素塩泉」かアルカリ性の温泉へ。これは、箱根湯本温泉のあたりに多い泉質です。次に、血行を促進して肌の巡りを良くする「硫黄泉」へ。標高の高い湯の花温泉や芦之湯温泉は硫黄泉です。仕上げは、化粧水のようにしっとりと保湿する「硫酸塩泉」。これは大涌谷の源泉を引いている強羅温泉や仙石原温泉のエリアで入ることができます。このように順番を考えて巡れば効率よく温泉でスキンケアができるわけです。
肌や体の代謝アップを目指すなら、まず「硫黄泉」や「二酸化炭素泉」で血行促進してから、体を温めてポカポカを持続させる「塩化物泉」へ。塩化物泉は宮ノ下温泉や大平台温泉、奥湯本温泉などにあります。発汗をサポートして燃焼を高めるというコースです。
このように、温泉も化粧品を使い分けるように選んで、温泉旅でもっと美肌になっていただけたらと思います。
温泉ビューティ研究家・トラベルジャーナリスト。日本の温泉・世界の温泉や大自然を旅して写真撮影・執筆をする旅行作家。テレビにも出演。温泉・自然・食で美しくなる旅の研究家。海外ブランドのマーケティング・広報の経験から温泉地の企画や研修もサポート。日本温泉気候物理医学会会員、日本温泉科学会会員、日本旅のペンクラブ会員、気候療法士(ドイツ)、温泉入浴指導員。
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